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括り紮げる 35

オレは踵(きびす)を返して、珀英と別れた駅へと引き返した。 同時にスマホを取りだして、ジョージに電話をして、今日は遅れることを告げた。スタジオに着く頃にまた電話すると伝えて電話を切る。 ダメだ。 珀英に会いたい。 一緒にいたい。 今まで平気だったのに・・・会ってしまったらもうダメだった。 日本にいる時は、毎日珀英が家で待っていてくれたから、早く仕事終わらせて帰りたいって思って、頑張れた。 でも今は違う。帰っても珀英はいない。 帰っても、珀英はいない。 早歩きで駅にたどり着くと、オレは空港までの電車に乗るべく切符を購入する。ホームに着くとちょうど滑り込んできた電車に乗って、空港へと走る。 広くてゆったりとした椅子に座り、日本の新幹線みたいな作りの車内を見渡す。そこそこ人は座っているものの、立っている人はおらず、日本の帰省ラッシュとは程遠い光景だった。 空港まで約30分。いつもだったらあっという間に着くのに、今日は遅く感じる。早く、早く着いて欲しい。 じりじりとした気分で待っていると電車が空港に到着した。オレは走って降りたい衝動を殺しながら、前の人に続いて電車を降りると、空港ビルの中へと入る。 当然ながら、珀英の姿は見えない。 探すことは諦めてオレはスマホを取り出すと、珀英の番号へ電話をかける。数回のコール音の後、珀英の声が耳元で響いた。 『もしもし、緋音さん?どうしました?』 「お前、今どこ?」 『え?空港ですが・・・』 「そんなことわかってる。空港の何処?」 『売店にいますけど・・・緋音さん、もしかして空港にいるんですか?』 珀英の嬉しそうな声。 追いかけてきたことを察しての言葉に、思わず恥ずかしくなって、ぶっきらぼうに言う。 「ターミナルビル3の電車おりた所にいるから、迎えに来い」 『え・・・あ、はい!すぐ行きます』 「真ん中らへんにいるから」 『わかりました!』 それだけ言ってオレは電話を切ると、珀英が見つけやすいように端には行かずに、人が往来する真ん中をうろうろと歩いて珀英を待つ。 5分くらいそうやって待っていると、 「緋音さん!」 背後から珀英の声が聞こえた。振り向くとスーツケースは既に預けたのか、手荷物だけを持った珀英が息を切らしながら、駆け寄ってきた。 「緋音さん・・・どうしたんですか?」 「別に・・・」 帰って欲しくないとか、一緒にいたいとか、会いたいとか、そんな可愛げのあることなんか言えず、オレはそれだけ言うとむくれて俯(うつむ)いた。 珀英はオレがそういう態度を取ってしまうことをわかっているので、馬鹿みたいにものすんごく嬉しそうに笑う。 「来てくれて嬉しいです。ありがとうございます」 「うん・・」 「レコーディングは、大丈夫ですか?」 「連絡したから、大丈夫」 「そうですか。フライトまでまだ時間あるんで、なんか食べます?」 「・・・・・・・・食べる」 オレはそう言うと、珀英は腕をひっ掴んでひきずるように歩く。 「緋音さん?!」 慌てた様子の珀英を無視して、オレは空港の外まで珀英をひきずって歩いた。 「ご飯食べるなら、レストラン街に行けば」 「黙れ」 珀英の腕を掴んだまま乱暴に歩くオレに、何かを感じたのか、珀英は何も言わなくなった。 オレに引きずられるまま歩いて、空港が広いので外に出るまでも結構歩くけれども、珀英は黙って素直についてきてくれる。 そのままタクシー乗り場に行き、珀英を押し込んでタクシーに乗ると、行き先を運転手に告げて発車してもらう。 何が何だかわからないなりにも珀英は何も言わず、大人しくオレのしたいようにさせてくれる。 タクシーは空港敷地を出て市道に出ると、ほんの少し走って、オレが指定したホテルの玄関へ着く。 料金を払ってタクシーを下りて、オレは後から下りてくる珀英を置いて、さっさと受付に行く。 受付の綺麗な金髪の女性に、男二人でと告げると、ツインがなくてダブルの部屋ならあると言われる。 オレに追いついた長身の珀英を見ながら申し訳なさそうにしている彼女に、オレはその部屋で構わないことを告げて、手続きを済ませる。 鍵を受け取ってさっさとエレベーターに向かうオレを、珀英が慌てて追いかけてくる。部屋まで案内しようと案内係がきたが、それを断る。

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