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第15話 二人のなれ初め④
自分の気持ちに気づいたときが失恋の瞬間だなんて、泣こうにも泣けない。
けれど、好きだからこそ、あきらめなきゃいけない。じゃないと、親友としての翔多まで失ってしまう。それだけは嫌だ。
……こんなことなら、好きだなんて気づかないほうがよかった。
でもしかたない。翔多がなにもなかったように振る舞うなら、浩貴も同じようにするしかないのだから。
浩貴はひどく痛む心に、無理やりそう言い聞かせた。
キスと告白をしてから三日が経った夜、翔多が突然、浩貴の家へ来た。
時刻はもう十一時半を回っていて、朝の早い父親も弟の浩之も、とっくに眠っていた。
「ごめん、浩貴、こんな時間に。もう寝てた?」
「いや。起きてたけど。どうしたんだ? なにかあった?」
「うん。……ううん。ごめん……」
思い人の突然の来訪に、浩貴は緊張していたが、翔多のほうも、明らかにいつもの彼と様子が違う。
学校ではいつもと変わらなかったのに、いったいどうしたんだろう?
あきらめると決めた恋だけど、やはり好きな人の様子が変だと心配になる。
浩貴は家の奥を親指で示すと、
「親父たち、もう寝てるんだ。悪いけどちょっと外出ようか」
深夜の話し声というのは案外響いて、眠りの邪魔をしてしまう。
二人は少しだけ歩き、近くの公園に行った。
街灯の傍にあるベンチに並んで座る。
公園は小さいけれど手入れが行き届いていて、たむろする非行少年たちもいない。
時折猫が鳴く声と、遠くで車が走り去る音が聞こえる以外は、都会とは思えないほどの静けさが広がっていた。
春の夜の風が二人の髪を揺らす。空には真ん丸なお月様。星はほとんど見えない。
しばしの沈黙のあと、
「ほんとにどうしたんだ? 翔多」
彼の顔を覗き込むようにして問いかけたが、なにも答えない。
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