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第30話 それは優しさか優柔不断か
「ミカコが不治の病……?」
そう呟いたきり、あとの言葉が続かないのか、翔多はフォークにショートケーキのイチゴを刺したまま黙り込んでしまった。唇の端っこに生クリームがついている。
「うん……」
浩貴は自分の細く長い指で生クリームを拭ってやりながら、答えた。
――ミカコを家へ送って行ったあと、浩貴は翔多の下宿先へ向かい、着いたのは夕方の五時を少し回ったころだった。
翔多の伯母さんの好意に甘えて夕食を一緒に食べたあと、二階にある翔多の部屋へ二人は腰を落ち着けた。
伯母さんの手作りのフルーツジュースと、浩貴がお土産に買ってきたイチゴのショートケーキを前に、浩貴は先ほどのミカコの打ち明け話を翔多へ伝えたのだった。……ミカコが翔多には話さないで欲しいと言ったところは、勿論はぶいて。
「なに? そのドラマみたいな話」
言葉を失くしていた翔多が、ようやく口を開いた。
「オレもびっくりしたよ。ミカコ、元気そうなのに。まさかそんな重大なこと打ち明けられるなんてさ」
「で、なに? ミカコはいったいどこが悪いんだよ?」
形のいい眉をかすかにひそめて、翔多が聞いてくる。
「それが、はっきりしたことが分かるまでは言いたくないって。……そう言われちゃったら、オレもそれ以上聞けないし」
「そうだね」
「でも、本当なんでもない可能性のほうが高いと思う。今も言ったけど、ミカコ元気そうだし、体育の授業も普通に受けてるしさ」
「そうだね」
「まあ、それでもミカコにしてみれば、すごく不安だと思うけど」
「そーだろうね」
翔多がショートケーキの山を崩しながら、答える。
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