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第35話 モーニング・メランコリー②

 寝ぼけた恋人の声に暖かな気持ちをもらった翔多は、元気に浩貴に話しかけた。 「ひっろたかー、おはよーっ、起きてたー?」 〈……翔多、おまえな……、起きてるわけないだろ……。日曜日のこんな朝早くから……〉  そして大きなあくびを一つ。 〈……どうした? こんな時間に。なにか、あったのか?〉  話しているうちに目が覚めてきたのか、浩貴のあくび混じりの声は、途中から心配そうなものに変わっていった。 「うん、今さー、いつものホテルにいるんだけど、浩貴もこっち、来れない? うん、今から。父ちゃんがここのモーニングセットの無料券、お得意さんに配ってさ。余った分オレ、もらってきたんだ。有効期限が今日までで、無駄にするのも勿体ないし、二人で食べようよ。ルームサービスで持ってきてくれるんだよー。豪華だよー。んじゃっ、1525室で待ってるからねー」  一気に話してしまうと、浩貴の返事を待つことなく、翔多は通話を終えた。  役目を終えたガラケーをベッドに投げ出すと、翔多は再び寝ころんだ。  冷たげな端整な顔とモデルのような長身を持つ恋人の顔を思い浮かべる。  浩貴とはもう何度もこのホテルに来ているし、毎週というわけにはさすがにいかないが、泊まりもする。  このホテルのオーナーは翔多の父親の友人で、翔多はなにもかも無料で利用できる。  でも、二人はホテルの飲食店フロアを利用したことはなかったし、勿論ルームサービスなんか論外だ。浩貴が頑として断るからである。  彼にしてみれば、宿泊料金が無料ということも心苦しいみたいだった。 『絶対に出世払いで払ってみせるから』 そんなふうにいう浩貴。  そんな浩貴の誠意なのだろう、食事はすべて彼が奢ってくれる。ファミリーレストランだったり、ファストフード店だったり、コンビニで食料を調達してきて、部屋で食べるという形だったり……。  浩貴と他愛ないおしゃべりをしながらの食事は、なによりおいしくて、翔多は幸せを噛みしめるようにご飯を噛みしめる。  なのに、今はそんな幸せな時間がほとんど持てない状態だった。

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