48 / 177

第48話 戻らない意識

「じゃ、じゃあ翔多は大丈夫なんですね!? そ、そんなに大怪我ではないんですね!?」  翔多の伯母さんがすがるような声で医師に詰め寄る。 「そうですね……。脳のMRIでもCTでも異常は見当たりませんでしたし、脳波も正常です。内臓にも大きな損傷は見られませんでした。左手上腕部の骨折と、外側に約三十センチの裂傷、全身打撲。事故の様子を思えば、奇跡的と言っていいくらい軽いものでしょう。……ただ」  男性医師はそこでいったん言葉を切ると、考え込むようにして黙ってしまった。  その沈黙が怖かった。 「ただ? ただ、なんなんだよっ!? 翔多は軽い怪我で済んだんじゃないのかよっ!?」  医師の沈黙に耐えきれず、浩貴は叫んだ。翔多の伯父さんが浩貴をいさめる。  医師がようやく口を開いた。 「……意識が戻らないんです。今も説明したように、翔多くんは命にかかわるような怪我はしていません。時間的に見て、もう意識が戻ってもいいはずなんです。はっきりと気が付く、とまではいかなくとも、なんらかの反応はあるべきなんですが、まったくそれがない。眠り続けているといった状態なんです」  医師の口調には隠しきれない困惑が浮かんでいた。 「意識が戻らないって……、それはどういうことなんですか?」  今にも医師につかみかかり、詰問しそうな浩貴を押さえて、翔多の伯父さんが聞く。 「まだはっきりしたことは言えません。とにかくもうしばらく様子を見ましょう」  男性医師はそう言い残すと、面談室を出て行ってしまった。 「だ、大丈夫よ、浩貴くん。翔多ちょっとお寝坊してるだけで、すぐに目を覚ますわよ」 「そうそう。今夜か、遅くても明日の朝には、腹減らして、『おはよー』ってさ」  翔多の伯母さんと伯父さんが、浩貴とそして自分たち自身に言い聞かすように、ことさら明るく言う。 「そうですよね……」  浩貴もまた自分自身に言い聞かすように、そう答えた。

ともだちにシェアしよう!