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第48話 戻らない意識
「じゃ、じゃあ翔多は大丈夫なんですね!? そ、そんなに大怪我ではないんですね!?」
翔多の伯母さんがすがるような声で医師に詰め寄る。
「そうですね……。脳のMRIでもCTでも異常は見当たりませんでしたし、脳波も正常です。内臓にも大きな損傷は見られませんでした。左手上腕部の骨折と、外側に約三十センチの裂傷、全身打撲。事故の様子を思えば、奇跡的と言っていいくらい軽いものでしょう。……ただ」
男性医師はそこでいったん言葉を切ると、考え込むようにして黙ってしまった。
その沈黙が怖かった。
「ただ? ただ、なんなんだよっ!? 翔多は軽い怪我で済んだんじゃないのかよっ!?」
医師の沈黙に耐えきれず、浩貴は叫んだ。翔多の伯父さんが浩貴をいさめる。
医師がようやく口を開いた。
「……意識が戻らないんです。今も説明したように、翔多くんは命にかかわるような怪我はしていません。時間的に見て、もう意識が戻ってもいいはずなんです。はっきりと気が付く、とまではいかなくとも、なんらかの反応はあるべきなんですが、まったくそれがない。眠り続けているといった状態なんです」
医師の口調には隠しきれない困惑が浮かんでいた。
「意識が戻らないって……、それはどういうことなんですか?」
今にも医師につかみかかり、詰問しそうな浩貴を押さえて、翔多の伯父さんが聞く。
「まだはっきりしたことは言えません。とにかくもうしばらく様子を見ましょう」
男性医師はそう言い残すと、面談室を出て行ってしまった。
「だ、大丈夫よ、浩貴くん。翔多ちょっとお寝坊してるだけで、すぐに目を覚ますわよ」
「そうそう。今夜か、遅くても明日の朝には、腹減らして、『おはよー』ってさ」
翔多の伯母さんと伯父さんが、浩貴とそして自分たち自身に言い聞かすように、ことさら明るく言う。
「そうですよね……」
浩貴もまた自分自身に言い聞かすように、そう答えた。
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