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第50話 眠れる彼②

 意識が戻らない翔多について、医師は言った。 『たくさんの患者さんの中には、稀に翔多くんと同じ状態に陥る人がおられます。つまり脳にも内臓にも異常がなく、外傷も比較的軽めなのにもかかわらず、なかなか意識が戻らない。ようは原因不明といったケースです。心理的なものなのか、現代の医学ではまだ分かっていない領域のものが原因なのかは、私たちとしてもなんとも言えないというのが、正直なところです』 『いつ意識が戻るのかということも、分かりません。十分後に戻るかもしれないし、一時間後かもしれません。……一年後、十年後かもしれません』 『御家族や親しいお友達のかたは、できるだけ翔多くんの傍にいて、話しかけたり、手や体に触れてあげてください。そのことが意識を取り戻すきっかけになるかもしれません。たとえ意識がなくても、脳のどこかで認識していると、私たちは考えています』  だから浩貴は翔多の傍にいる。彼が目を覚ましてくれるまで。  翔多が目を覚ましたとき、自分が傍にいてあげられるように。  翔多が事故に遭った日以来、浩貴はずっと病院に泊まり込み、自宅へは一度も帰っていないし、高校も休んでいる。  事情を話し、父親に頼み込むと、すぐに許可してくれた。翔多のことはよく知っているからだろう。  学校にもきちんと事情を話し、許可をとってくれたし、毎日のように会社帰りに病室へ寄り、翔多の見舞いがてら、浩貴の着替えや差し入れを持ってきてくれる。  意識の戻らない翔多のことは勿論、憔悴しきった息子の顔に、心配そうに口を開きかけるが、結局なにもいわずに帰っていく。

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