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第51話 眠れる彼③

 浩貴はサイドテーブルに置かれた翔多の携帯電話を手にした。  怪我の様子から見て、翔多は左から地面に落ちたらしく、ジーンズの右ポケットに入っていたこの携帯は、奇跡的に壊れずに済んだのだ。  個室なので携帯電話の使用も許可されている。  浩貴は携帯の電源を入れ、アドレスを呼び出す。  病院はこれを見て、浩貴のスマートホンへ電話をかけたという。  そう、『自宅』と書かれたところに、浩貴のスマートホンの電話番号が入力されていたのだ。  以前、翔多と話したことを思い出す。  ……将来、二人同じ家へ帰れるようにしよう……。  翔多はその夢の欠片を携帯電話のアドレスに込めたのだろう。  翔多……。  こらえきらない涙が瞳に溢れてくる。  ――そのとき、小さくノックの音がした。    浩貴は翔多の携帯電話を閉じて、サイドテーブルに戻し、目元の涙を拭ってから返答した。 「……はい、どうぞ」  遠慮がちにドアが開き、ミカコが病室へ入ってきた。  ここに彼女が来たのは初めてだった。  翔多が事故に遭った日に、浩貴の家へ来ていて、それきりだ。 「浩貴、一人?」  広い個室にはベッドに横たわる翔多と傍で見守る浩貴しかいない。 「うん。翔多の御両親は今朝早くに少しだけ来られたけど、どうしても外せない仕事があるらしくて。下宿先のおじさんは会社に行く前に顔を出してくれて、おばさんはついさっき帰られた」  サイドテーブルの猫の置時計は、夕方の五時半過ぎを指している。おじさんが翔多の部屋から持ってきた時計だ。

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