53 / 177

第53話 罪

 病室に沈黙が降りてきて、ミカコの嗚咽だけが響く。  浩貴はもうなにがなんだか分からなかった。  ただ一つ、憔悴しきった心の片隅で思ったのは、なにもかも自分が悪いんだ、ということだった。  翔多が事故に遭ったのも、ミカコが嘘をついたのも、なにもかも、優柔不断を優しさとはき違えていた自分のせい……。 「……分かったから、もう泣くな、ミカコ」  浩貴はやっとの思いでそう言った。 「浩貴……」  ミカコが涙に濡れた顔を上げる。 「もう帰れよ。外暗いし」 「……浩貴、怒ってないの?」 「…………」  怒っていない、とはさすがに言えなかった。  けれども、彼女を責める気持ちにはなれないし、その気力もない。 「……おまえも辛かったんだろうから」  浩貴は、その言葉だけをなんとか絞り出すと、まだ泣き顔のミカコを見送った。  再び翔多と二人きりになった病室で、浩貴は自分の罪の深さに、頭が変になりそうだった。  激しい自責の念が押し寄せてきて、息が苦しい。  ミカコに不治の病かもしれない、と聞かされてから……浩貴はそんなつもりはなかったにせよ……結果的には翔多を遠ざけた形になった。  もしも、自分が翔多の立場だったら、どんな気持ちになっただろう?   浩貴は唇を強く噛みしめた。  不安だったに決まってるじゃないか……!

ともだちにシェアしよう!