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第55話 目覚めのとき

 ぼんやりと今は夕方か夜だな、と思った。  少なくとも朝ではないと、なんの根拠もなく翔多は思う。  誰かが自分を呼んでいる。  浩貴だ……。  あー、眠っちゃったんだなー、オレ。  もう帰らなきゃいけない時間なの? やだなー、もうちょっと二人でいようよ。ダメ?  オレ、まだすごい眠いよー。ものすごーく眠い。あとちょっと眠らせて。  翔多はそう言おうとするが、なかなか口が開いてくれない。  ダメだー。やっぱりまだ眠いよ。眠いんだってば。浩貴ー。  やっと少しだけ唇が動かせた気がして、翔多は小さく呟いた。  その途端、浩貴の大きな声が、翔多の霞がかかったような意識へ、容赦なく入り込んできた。  そんなに大きな声出さなくても、起きるってばー。……あー、でもやっぱりまだ眠いなー。  再びポソポソ呟くと、今度は頬へ浩貴のひんやりとした手が触れてきた。  ……分かったよ。起きる。起きるってば……。  翔多は糊付けでもされたかのように重いまぶたを、必死で開けようとした。  少しまぶたが開いたと思った瞬間、痛いほど眩しい光が瞳に飛び込んできて、反射的にまたまぶたを閉じてしまう。  それでも翔多はもう一度、ソロソロとまぶたを開けて行った……。

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