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第56話 目覚めのとき②

「翔多……?」  浩貴が名前を呼び続けていると、翔多の唇がなにかを話すように少しだけ動いた気がした。  浩貴は繰り返し恋人の名前を呼び続け、大きな手でなめらかな頬に触れる。 「翔多……、翔多……?」  すると今度は、はっきりと翔多の唇が動いた。  そして……。  彼の長いまつ毛が震えたかと思うと、ゆっくりとまぶたが開きかけ、眩しさに驚いたように再び閉じられる。数回それを繰り返したあと、まぶたが徐々に開いていった。  スローモーションの映像を見ているように、翔多の大きな瞳が、その輝きを取り戻していく。 「翔多っ……!」 「……浩貴……」  ひどく掠れた声が、確かに浩貴の名前を呼んだ。 「翔多……」  浩貴はにわかには信じられない思いで、翔多の顔を見つめたが、次の瞬間には彼を腕の中に強く抱きしめた。  涙がとまることなく溢れてくる。 「翔多……翔多……」 「……浩貴? どしたの? いったい。……泣いてるの……? 浩貴……?」  翔多のほうはなにがなんだか分かっていない様子で、戸惑ったような表情で、泣いている浩貴を見つめている。  十日ぶりに見る翔多の愛くるしい瞳。  浩貴は普段、特に神さまを信じてはいないが、このときばかりは心から神さまへ感謝をした。

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