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第57話 二人の時間
翔多が目を覚まして、二人は久しぶりの恋人同士の甘い時間をゆっくりと過ごす……ことはできなかった。
点滴を取り換えに来た看護師が、翔多が意識を取り戻したのを見て、大騒ぎで医師を呼びに行き、看護師と入れ違いに翔多の伯父さんが会社帰りにお見舞いにやって来て、大騒ぎとなった。
翔多の両親や伯母さんにも連絡をして、医師の診察があり、浩貴の父親も見舞いにやって来て、とまさに目が回るほどの大騒ぎで、なにより当の翔多が一番、大騒ぎについていけてない様子だった。
浩貴と翔多がゆっくり二人きりになれたのは、面会時間も終わって一時間以上が過ぎた夜の十時過ぎである。
「あーあ。おなか空いたなー」
翔多がベッドへ横たわったまま、何度目かの同じ呟きを口にした。
十日も眠り通しだったのだ。意識が戻ったからといって、なにもかもが急に許されるわけではない。
点滴はまだ必要だし、医師からはしばらく安静にしているように言われている。
「ねー、浩貴、この病院、コンビニあるんだろ? なにか買って来てよー」
甘えた声でねだられたけど。
「ダメ。医者が言ってただろ? 食事は明日の朝、重湯から始めましょうって」
長いあいだ、食べ物を口から摂っていないため、胃が弱っていて、急に固形物を食べるのは禁止されているのだ。
「オモユって?」
翔多が聞いてくる。
「うーん。おかゆのご飯粒の入っていないやつって感じかな……多分」
「それっておいしいの?」
「おいしくはないんじゃないかな……多分」
普通食だって病院のご飯というのは、大体おいしくないものだと思うけど。
「えー?」
盛大にふくれっ面をする翔多。……そんな顔もかわいくて、愛しくて、幸せで、浩貴は泣きそうになる。
「……ごめんな、翔多」
涙を飲み込んで、浩貴は翔多に謝った。
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