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第59話 二人きりの時間③
「夕方かー、まだ二時前だから、迎えが来るまでちょっと時間があるな」
退院の日は土曜日で、学校が半日だった浩貴は授業が終わるとその足で直接、翔多の病室へ来た。
二人で病院の食堂へ行き、お昼を済ませ、退院のための荷物まとめを手伝った。
たくさんのお見舞い品があったが、なんとかボストンバッグと紙袋一つにおさまり、あとは迎えの車を待つだけだった。
午後の日差しがたっぷり差し込む病室のソファで、浩貴と翔多は並んで座り、他愛のないおしゃべりをして過ごした。
ふと浩貴は翔多に聞いてみる。
「な、翔多。オレ、おまえが眠り続けてたあいだ、おまえの傍にいて、名前呼んだり手を握ったりしてたんだけど、それって伝わってた?」
翔多は浩貴のほうを見て、何度かパチパチと瞬きを繰り返してから、視線を逸らして考え込んだ。
「……うーん。正直言うとさー、オレ十日間も眠ってた実感がないんだよねー。目を覚ます直前に浩貴が呼んでくれたのは、はっきり憶えてるんだけど。『もう浩貴、あとちょっと眠らせてよー』……みたいな感じでさ」
「なんだよ? それじゃオレが一生懸命、呼びかけたり、手を握ったりしてたのは憶えてなくて、目を覚ます前も、『もー、うるさいなー』とか思われてたわけ?」
「いや、うるさいなんか思ってないよ」
翔多は慌てて言うが、浩貴はさすがに少し拗ねてしまう。
すると翔多が明るく笑いながら、浩貴の肩へ小さな頭をもたせかけてきた。
「あのさ、きっと浩貴の声や手を握ってくれてたこと、伝わってたと思う。だからこそオレ、目を覚ますことができたんだよ。ただ憶えてないだけで、きっと伝わってた……浩貴の気持ちは。浩貴がずっと傍にいてくれたから、今こんなふうに笑っていられる。愛のチカラってすごいね」
そう言葉を紡ぐと、翔多は大きな瞳を輝かせた。
そんな恋人の顔を見ていると、浩貴の口元も自然とほころんでくる。心が幸せで満たされる。
浩貴は自分の腕を翔多の細い腰へまわした。
「そうだよな」
「うん」
二人は寄り添い合いながら笑った。
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