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第60話 再び幸せな日常、そして

「行ってきまーす」  浩貴はいつもより元気よくそう言うと、自宅のドアを閉め、自転車へ乗った。  ずっと自宅療養を続けていた翔多が今日から登校する。  まだ体育の授業は受けられないらしいが、体力はずいぶん回復したみたいである。  自転車を颯爽と走らせながら、浩貴はツラツラと思い出す。  自宅療養っていうから、実家のほうへ帰るとばかり思って、下宿先より遠くなるから寂しいな、とか考えていたら……。  翔多が病院から帰ってきたのは、下宿先の伯父さん夫婦の家だった。  彼いわく、 「だってさー、実家ってなんとなく窮屈なんだもん。特に執事のヤマザキは超厳しくてさー」  そういうことらしい。  執事のいる家って……、想像がつかない。  翔多ってやっぱり大会社の御曹司だったんだなー。そうは思えないけど。  浩貴が、下宿先のベッドへ寝ころぶ翔多を見て、そんなふうに感心していると、 「それにこっちのほうが浩貴の家に近いし」  なんて、かわいいことを彼は言ってくれた。  商店街を通り抜け、年季の入った和風の二階建ての前で自転車をとめる。  その音を聞きつけたのか、翔多が玄関からヒョコッと顔を出した。 「おはよー、浩貴」 「おはよ、翔多、体、大丈夫そうか?」 「うん、全然平気」  翔多の制服姿を見るのは久しぶりなので、浩貴はちょっとドキドキと萌えてしまった。  

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