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第62話 とんでもない提案

 翔多は左手上腕部の骨折も完治し、体力も完全に戻り、体育の授業も受けられるようになった。  でも、左手の裂傷の跡だけは消えなかった。  医師が言うには、傷が深かったため、傷跡は一笑消えないらしい。  翔多本人は、「男の勲章だってー」とまったく気にしていないが、浩貴はその傷跡を見る度、心が痛んだ。  勿論、なによりも悪いのは、スピード違反と前方不注意で捕まった人間だが、浩貴は自分にも遠因があるという気がしてならなかったし、事実その通りだと思っている。  もう二度とどこにも傷なんかつけさせないから……。  彼の痛々しい傷跡にそっとキスをして、浩貴は心に強く誓った。  ミカコにははっきり、「恋愛対象としては見れない」と告げた。彼女は泣きはしたが納得してくれた。  そして、日々は平和に過ぎていく。  生まれて初めて愛する人とクリスマス・イブの夜を過ごし、大みそかから新年にかけては、近くの神社へ初詣へ出かけた。  そういえば、と浩貴は思い出す。  去年もこうして翔多と二人で初詣へ来たっけ……。  でも、去年はまだ二人は親友同士だった。一年後に恋人同士となって初詣へ来るなんて、夢にも思っていなかった。そう考えてみると、やはり一年は長いのである。  三が日が過ぎ、冬休みの宿題を翔多と二人、頭を突き合わせて片づけ、三学期が始まり、一月も半ばを過ぎた、ある土曜日の午後のこと。翔多がとんでもないことを口にした。 「美少女コンテストに出ようよ、浩貴」

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