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第71話 美少女コンテストに参加する理由
紙の上では、顔の半分くらいある、大きな目をしたアニメの女の子が微笑んでいる。
「マジかよ……」
浩貴は思わず呟いた。
美少女コンテストに男である翔多と自分が女装して参加する。
想像するだけでめまいがした。
翔多は本気でこれに出るつもりみたいだが、いったいなにを考えているのか。
だいたい翔多は、「女の子みたいな綺麗な顔してるね」としょっちゅう言われているが、特にうれしそうでもない。
いくら悪ふざけの好きな翔多でも、こんなコンテストに女装してまで出たいなんて思わないはず……。いや、でも翔多は性格がはっちゃけてるからなー……。
『豪華な賞品も出るし』
不意に彼がそう言っていたことを思い出す。
賞品が目当てか? いったいなにをくれるんだ?
浩貴は紙面を隅から隅まで目で追ってみる。
・優勝(一名)――― Z社製携帯ゲーム機
・準優勝(一名)―― QUOカード
・審査員特別賞(一名)スイーツ詰め合わせ
「Z社製携帯ゲーム機って……」
……ああ、そうか、翔多はこれをゲットするために、このコンテストに出るなんて言いだしたんだ。
浩貴の心に暖かいものが込み上げる。
今、翔多が傍にいないのがたまらなく寂しかった。傍にいたら、思いきり抱きしめるのに……。
――あれは十日ほど前のことだっただろうか。
学校の昼休み、浩貴は某量販店のチラシへ視線を落とし、溜息をついていた。
「やっぱ、ここも売り切れか。しかたないよなー。予約だけで初回生産分が売切れたって噂だし」
「浩貴ー、ただいまー」
職員室へ行っていた翔多が能天気な声とともに戻ってきた。
「おかえり、翔多。また数学のフジワラから宿題プリントもらったの?」
「うん。こーんなに」
翔多は、浩貴の机の上へドンと束になった数学の宿題プリントを置いた。
「フジワラのやつも、毎日のようにおまえ専用のプリント作るの大変だと思うぞ? ちょっとがんばって、小テスト、超絶どん底から普通のどん底くらいまで這い上がってみれば?」
浩貴が苦笑しながら言うと、翔多は大きな瞳で恨めしそうににらんできた。
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