76 / 177
第76話 メイクアップ
美少女コンテストに出るに当たって、浩貴は心に決めていることがあった。
……絶対に自分だと分からないように変装すること。
浩貴と翔多が住む町からは、少し離れたところにあるホールでコンクールは開かれるが、万が一にでも知り合いが来ないとは言い切れない。
ファンデーションを濃く塗り、アイシャドー、チーク、つけまつ毛までつけてやる。仕上げに真っ赤な口紅。
……なんかオレ、まあまあ見れるようにできあがったんじゃないか?
鏡に映った自分の顔を見て、意外にもそう思ってしまった。
次に服を身に着けていく。パステルカラーのブラウスに、ロングスカートというものだが、さすがに女性ものは、細身の浩貴でもきつい。ロングスカートはロングではなくなってしまうし、ブラウスも肩が窮屈だ。
「さすがに体つきはごまかせないよなー」
それでも上着に自前の古着っぽいGジャンを着て、ごまかした。
仕上げにストレートのロングヘアのウイッグを被って出来上がり。
浩貴は自分の女装姿にまずまず満足した。元の自分は見る影もなく、今、父親や弟に会っても、至近距離でさえなければ、多分気づかれないだろう。それでいて、まあまあの美女にできあがっていた。
さてと、ところで翔多はどんなふうに変身してるのかな?
ドキドキしていると、洗面所のドアが内側からノックされ、翔多の能天気な声が聞こえてきた。
「浩貴ー、できたー?」
「ああ。うん」
「じゃあ、せーのーで、こっちからドア開けるからねー。……せーのっ」
洗面所のドアが勢いよく開かれる。
「ごたーいめーん!」
翔多の声が明るく弾み、二人は向かい合った。
「わー、浩貴、美人ー。やっぱり元がいいと、化粧が映えるねー」
翔多が大はしゃぎで言う。
「でもさー、浩貴だって分かんないよー。もうちょっと薄化粧で良かったのにー。もとが美形なんだからさー、そんなに塗りたくらなくっても」
メイクアップアーティスト気取りで、あれやこれやと騒ぐ翔多の前で、浩貴は完全に彼に見惚れていた。
ともだちにシェアしよう!