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第76話 メイクアップ

 美少女コンテストに出るに当たって、浩貴は心に決めていることがあった。  ……絶対に自分だと分からないように変装すること。  浩貴と翔多が住む町からは、少し離れたところにあるホールでコンクールは開かれるが、万が一にでも知り合いが来ないとは言い切れない。  ファンデーションを濃く塗り、アイシャドー、チーク、つけまつ毛までつけてやる。仕上げに真っ赤な口紅。  ……なんかオレ、まあまあ見れるようにできあがったんじゃないか?   鏡に映った自分の顔を見て、意外にもそう思ってしまった。  次に服を身に着けていく。パステルカラーのブラウスに、ロングスカートというものだが、さすがに女性ものは、細身の浩貴でもきつい。ロングスカートはロングではなくなってしまうし、ブラウスも肩が窮屈だ。 「さすがに体つきはごまかせないよなー」  それでも上着に自前の古着っぽいGジャンを着て、ごまかした。  仕上げにストレートのロングヘアのウイッグを被って出来上がり。  浩貴は自分の女装姿にまずまず満足した。元の自分は見る影もなく、今、父親や弟に会っても、至近距離でさえなければ、多分気づかれないだろう。それでいて、まあまあの美女にできあがっていた。  さてと、ところで翔多はどんなふうに変身してるのかな?  ドキドキしていると、洗面所のドアが内側からノックされ、翔多の能天気な声が聞こえてきた。 「浩貴ー、できたー?」 「ああ。うん」 「じゃあ、せーのーで、こっちからドア開けるからねー。……せーのっ」  洗面所のドアが勢いよく開かれる。 「ごたーいめーん!」  翔多の声が明るく弾み、二人は向かい合った。 「わー、浩貴、美人ー。やっぱり元がいいと、化粧が映えるねー」  翔多が大はしゃぎで言う。 「でもさー、浩貴だって分かんないよー。もうちょっと薄化粧で良かったのにー。もとが美形なんだからさー、そんなに塗りたくらなくっても」  メイクアップアーティスト気取りで、あれやこれやと騒ぐ翔多の前で、浩貴は完全に彼に見惚れていた。

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