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第85話 帰り道

「なーんだ、つまんねーの。じゃ、近いうちに絶対な。浩貴、翔多くん」 「……ああ」 「それじゃ……と、そういえば浩貴、おまえの家ってまだあそこ? あの柿の木のある……」 「ああ。そうだよ」 「ほんっと、懐かしいよなー。じゃまたな」  今里はそう言うと、派手なコートを翻して,雑踏の中へと去って行った。  最寄りの駅から、浩貴と翔多、それぞれの自宅と下宿先へはどちらも徒歩で十五分くらいだ。……恋人同士にとっては短すぎる距離かもしれない。  この頃は、まず下宿先へ翔多を送り、時間が早ければ彼の部屋へお邪魔し、それから浩貴は自宅へ帰るというのが、習慣になっている。  浩貴は思う。いつだったか翔多が言ってたように、二人、同じ家へと帰れるようになりたいと。  仲良く肩を並べて、翔多の下宿先への道を歩いているとき、不意に翔多が言った。 「そういえば、ね、浩貴。さっきの浩貴の幼馴染の……今里くん、だっけ? イケメンだったよねー」 「は? なんなんだよ? 急に」  翔多が他の男のことを褒めるのは、愉快なことではない。浩貴の口調がちょっぴりとがる。 「だってさ、浩貴って、すごーくイケメンだろ? やっぱりイケメンはイケメンの友を呼ぶのかなーって思ってさ」  翔多は自分の美貌はよそに感慨深げにうなずいている。  そんな恋人を苦笑しながら見ていた浩貴だったが、ふとあることに思い至り、背筋を伸ばすと翔多を真剣な瞳で見つめた。

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