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第86話 天真爛漫
「翔多、気にすんなよ、今里のこと」
「え?」
「だから。『今里くんはオレの知らない浩貴を知ってるんだ……』とか思って、疑心暗鬼になって、不安になるなよ?」
翔多は愛らしい瞳で少しのあいだ浩貴のことを見つめていたが、
「そーんなのぜんぜん気にならないよー?」
天真爛漫といった顔で笑い飛ばした。
「だってさ、それを言ったら、オレだって、今里くんの知らない浩貴を知ってるわけでしょ?」
「……まあ、そうだけど……」
能天気な恋人の様子に、浩貴は少々複雑な気持ちだった。
翔多を不安にさせたいわけでは、決してない。……だけどちょっぴりヤキモチをやいて欲しかったのも事実だったのだ。
そう例えば――
『浩貴、今里っていうやつとは、なんにもないんだよね?』
『バカだな、翔多。オレが好きなのはおまえだけだよ』
『浩貴……』……翔多の瞳がウルウル潤む。
――なんてね。
しかし、なにはともあれ、翔多の能天気さのおかげで、彼の下宿先へ着く頃には、久しぶりに再会した幼馴染のことは、浩貴の頭の中からすっかり消えていた。
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