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第91話 ライバルのアプローチ
「なんだよ、浩貴、冷たいなー。せっかく久しぶりに再会したから、会いに来てやったんじゃないか。つもる話もあるしさー」
浩貴にとって、今里はあまり歓迎できる相手ではないのである。
「それに翔多くんとも、もっと話がしたかったしさ」
浩貴の自転車の隣に自分の自転車をとめている翔多のほうを見て、今里が微笑む。
それが嫌なのだ、とはさすがに言えない。
「分かったよ。じゃ、とにかく上がれよ」
「おっじゃましまーす」
今里は昔よくこの家へも遊びに来ていたので、勝手知ったる他人の家とばかりにズカズカと入っていく。
浩貴は翔多にこっそり謝った。
「ごめんな、翔多」
「ううん。オレも今里くんとおしゃべりしてみたいよー?」
無邪気な顔で笑う翔多。
……だからこそ、今里とはあまり近づけたくないんだけど……。
しかし、やはりそんなこと言葉にはできなかった。
三人はリビングに腰を落ち着けた。
浩貴と翔多が並んで座り、今里はテーブルを挟んだ向かい側のソファへ座る。
クッキーをつまみつつ、紅茶を飲んでいるとき、不意に浩貴は思い出した。
「そういえば、今里、おまえ日本に帰ってきたのか?」
「いや。親父が仕事でひと月ほど日本に戻るっていうから、くっついてきただけ。親父の仕事が終わったら、またアメリカへ戻るよ」
「え? 今里くんってアメリカに住んでるの?」
翔多が驚いている。
「うん。小学校三年生の時に、親父の仕事の都合でアメリカへ行ってからずっと。日本に帰ってきたのは八年ぶりかな」
「ふーん。なんかすごいねー」
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