93 / 177
第93話 シュークリーム
「……へえ、そうなんだ」
特に不審に思ったふうもなく今里はうなずく。
「ミカコも子供の頃に住んでた家のままだよ、赤い屋根の。あそこなら、おまえもよく知ってるだろ?」
「ああ。じゃ、とりあえずミカコんとこ訪ねてみるわ」
「ああ」
今里を見送ると、浩貴はようやくホッとし、彼の飲んだ紅茶のカップを片づけながら、翔多に訊ねた。
「翔多、紅茶、おかわり飲むだろ?」
「うん。ありがとー」
浩貴が二人分の新しい紅茶と、シュークリームのお皿を乗せたトレイをテーブルの上に置くと、翔多が瞳を輝かせた。
「わー、おいしそう。ね、浩貴、このシュークリーム、新しくできたケーキ屋さんのじゃない?」
「そう。今朝、隣のおばさんがおすそわけって持ってきてくれたんだ。けどすぐに浩之が二つも食っちゃって、もう二つしか残っていなかったんだよ。今里には悪いけど出さなかった」
一応お客であった今里に出そうかとも思ったのだが、彼は昔から甘いものが好きではなかったし、結局、自分が食べたい気持ちが勝ってしまったのだ。
翔多同様、浩貴もまた甘党だ。
「いただきまーす」
二人してシュークリームにかぶりつく。
「おいしいー。幸せー」
翔多が子供のような笑顔を見せる。彼のおいしい顔を見ていると、一段とシュークリームがおいしく感じられるから不思議だ。
翔多は唇の端についたカスタードクリームを細い指で拭いながら、
「ところでさ、今里くんって、もしかして浩貴のこと愛してるのかな?」
とんでもないことを口にした。
浩貴は飲んでいた紅茶を吹きだしてしまいそうになった。
ともだちにシェアしよう!