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第93話 シュークリーム

「……へえ、そうなんだ」  特に不審に思ったふうもなく今里はうなずく。 「ミカコも子供の頃に住んでた家のままだよ、赤い屋根の。あそこなら、おまえもよく知ってるだろ?」 「ああ。じゃ、とりあえずミカコんとこ訪ねてみるわ」 「ああ」  今里を見送ると、浩貴はようやくホッとし、彼の飲んだ紅茶のカップを片づけながら、翔多に訊ねた。 「翔多、紅茶、おかわり飲むだろ?」 「うん。ありがとー」  浩貴が二人分の新しい紅茶と、シュークリームのお皿を乗せたトレイをテーブルの上に置くと、翔多が瞳を輝かせた。 「わー、おいしそう。ね、浩貴、このシュークリーム、新しくできたケーキ屋さんのじゃない?」 「そう。今朝、隣のおばさんがおすそわけって持ってきてくれたんだ。けどすぐに浩之が二つも食っちゃって、もう二つしか残っていなかったんだよ。今里には悪いけど出さなかった」  一応お客であった今里に出そうかとも思ったのだが、彼は昔から甘いものが好きではなかったし、結局、自分が食べたい気持ちが勝ってしまったのだ。  翔多同様、浩貴もまた甘党だ。 「いただきまーす」  二人してシュークリームにかぶりつく。 「おいしいー。幸せー」  翔多が子供のような笑顔を見せる。彼のおいしい顔を見ていると、一段とシュークリームがおいしく感じられるから不思議だ。  翔多は唇の端についたカスタードクリームを細い指で拭いながら、 「ところでさ、今里くんって、もしかして浩貴のこと愛してるのかな?」  とんでもないことを口にした。  浩貴は飲んでいた紅茶を吹きだしてしまいそうになった。

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