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第94話 特別な二人
「翔多っ! 気持ち悪いこと言うなよっ!」
「だってさー、引っ越してからもう何年も経っているのに、今里くんってすぐに浩貴のこと分かったじゃん。浩貴は思い出すまで結構時間かかっていたのに」
翔多はシュークリームの最後の一口をほおばりながら言う。
「それは、オレがガキの頃からあまり顔が変わっていないか、単に今里の記憶力がいいからだろ。……だいたい、あいつはミカコのことが好きだったんだと思うし」
「え? そうなの?」
「多分な。普通に考えて、男が二人、女が一人の幼馴染の場合、女の子のほうを好きになるんじゃないか?」
「えー、でもオレと浩貴は違ったじゃん」
「……それは、まあそうだけど」
そこで翔多が手を叩いて楽しそうに言った。
「あー、オレと浩貴が普通じゃないってことなんだね?」
「違うだろ……って、いや、そうなるのかな、やっぱり……」
男同士って、一般的にみると普通とは言えないよな……。
浩貴がマイノリティーの悲哀を感じていると、
「オレと翔多は特別なんだ」
翔がが胸を張って、無邪気に言う。
「翔多……」
あー、やっぱりかわいいな、翔多……。
普通じゃないって表現したら、なんとなくマイナスイメージを感じるけど、特別、って言いかえると、なんかとってもいい感じになる。
翔多はいつもこんなふうに、オレの心を暖かくしてくれる。お日様のように。
夏の、肌に痛い太陽じゃなくって、寒い冬に猫が日向ぼっこをするような、優しくて柔らかな太陽。
オレの大切なお日様……。
「……翔多……」
浩貴は翔多の頬にそっと触れて、顔を近づける。
ゆっくりと閉じられていく翔多のまぶた、触れ合う唇、招き入れられる舌。
キスは甘い、シュークリームの味がした。
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