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第97話 嫉妬心

「浩貴ー、おはよー」  浩貴が翔多の下宿先へ着くと、彼は表まで出てきて、ぶんぶん手を振って出迎えてくれた。  そんな恋人の姿を微笑ましく見つめてから、 「おはよ、翔多。今朝は早いほうだろ?」  腕時計に視線を落とすと、まだ九時半にもなっていない。朝が超苦手な浩貴にしてみれば、休日の朝に、起きて、食事をして、歯磨きと身支度を整えて……、それで十時にもならないうちに翔多の下宿先へ来ることは珍しいことなのだ。  一方、翔多のほうはというと、彼もまた当然のごとく朝は超眠いらしい。眠いが、おなかが空いて、休日でも八時までに目が覚め、半分寝ぼけながらもベッドから這い出していき、朝ごはんを食べるために起きだすというパターンである。 「そだね。昨夜、遅くまで電話でおしゃべりしたから、今朝はもっとゆっくりかと思ってた。……あ、ところでさ、浩貴、今里くんが来てるよ」 「え?」  今里が? なんで? だいだいどうして翔多の下宿先知ってるんだよ?  浩貴の訝しげな表情を読んだのか、翔多が説明をした。 「この前、ミカコのところに行ったときに聞いたらしいよ、オレの下宿先。んで、ここに来たら、浩貴も来るだろうって思ったって言ってた」  浩貴はなんとなく腑に落ちなかった。 「……だからって、なんでいきなり、おまえのところに……」 「オレのとこのほうが、今里くんが滞在しているホテルから近かったんじゃない? そんなことより、浩貴、早く上がりなよー」  翔多はまったく気にしていないようだが、浩貴は今里の行動に引っかかりを覚えずにはいられなかった。……喉の奥に魚の小骨が刺さったような、なんとも不快な引っかかりを。

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