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第98話 火花散る二人

 浩貴の分のフルーツジュースと、なにかお菓子を探してくるといって、翔多はキッチンへ向かった。  浩貴が居間の扉を開けると、すっかりくつろいだ様子の今里がいた。 「よー、浩貴、おはよー」 「……おはよ。なんでおまえ、ここにいんの?」 「なんだよ、浩貴、怖い顔しちゃって。まあ、突っ立ってないで座れば?」  まるで自分の家にでもいるように振る舞う今里に、浩貴は不愉快になる。  だいたい今、おまえが座ってる場所は、いつもオレが座る場所だっていうのに。  そんな子供のようなことまで思ってしまう。  不機嫌もあらわな浩貴を、更に逆なでするような不敵な笑みを浮かべて、今里が言った。 「浩貴、おまえミカコのことふったんだってな」 「えっ……?」 「ミカコが言ってた。『浩貴は私より翔多のほうが好きなのよ』って」 「…………」  ミカコがそんなことまで今里に話したのか? 彼女にとってそのことは、決して口に出して言いたいことではないだろうに。  忘れてしまいたい出来事を、ミカコが八年ぶりに再会した今里に話してしまったという事実に、浩貴は初めこそ驚いたが、やがてその驚きは納得に変わる。  ……今里なら聞き出すことは案外容易いことだったかもしれない。こいつは昔から、人が心の中にそっと隠していることを聞きだすのが、すごくうまかった。  そんな今里のことを浩貴も幼い頃は単純にすごいと感心していたが、年を重ねるごとにその能力ともいうべきものが怖くなってきた。 「オレ、てっきり浩貴とミカコは付き合ってるだろうなって思ってた。ミカコは昔からおまえのことが好きだったしな。なのにまさかミカコをふって、男と付き合ってるとはさすがのオレも想像さえしていなかったよ。……でも、まあ」  今里はそこでいったん言葉を切って、ニヤリと口角を片方だけ上げて笑った。 「相手が翔多くんなら、その気持ちも分からないでもないかな。あの子、本当にかわいい顔してるもんな。そこらの女なんか比べものになんねーくらい。トップクラスの美貌ってやつ」

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