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第99話 火花散る二人②
今里には悪気はないのかもしれないが、浩貴は彼の言い方に嫌ななにかを感じ、
「…………」
つい眉をひそめてしまう。
「おいおい、浩貴、そんな怖い顔するなよ。翔多くんと付き合ってること、別に悪いって言ってるわけじゃないんだし。ゲイなんかアメリカじゃたくさんいるんだしさ。それに翔多くんって綺麗なだけじゃなくって、なんかこう不思議な魅力のある子だし。おまえの気持ちも分かるなーって」
そんなふうに言う今里の目に品のない好奇心が垣間見えて、浩貴の苛立ちはいっそう高まった。
鋭い目で今里を睨みつけると、彼のほうもまた挑戦的な目を寄越してきた。
部屋に険悪な雰囲気が立ち込めたとき、翔多の明るい声が近づいてきて、扉が開く。
「浩貴、今里くん、おっまたせー」
トレイに浩貴のフルーツジュースと、スナック菓子やチョコレート菓子を乗せ、入ってきた翔多は、険悪な空気と恋人の発する苛立ちのオーラを敏感に感じっとったようで、
「……どうかした? 二人とも。……浩貴?」
黒目がちの大きな瞳に心配の色を浮かべて聞いてきた。
「……別になんでもないよ」
浩貴は努めて何気なく答えたが、翔多はまだ少し心配そうな顔をしている。だが、やがていつもの無邪気で明るい表情に戻り、和テーブルの上に持ってきたトレイを置くと、二人にジュースとお菓子を勧めた。
「はい、浩貴、伯母さん特製のフルーツジュース。今里くんもお菓子食べてねー」
「ありがとう。翔多くん」
さっきまでの不敵な態度はどこへやら。今里は愛想よく翔多に応え、行儀よくお菓子に手を伸ばしている。
重く苛立った空気は翔多と言うお日様がかき消してくれたが、浩貴の胸に引っかかっていた魚の小骨のようなものは、固い鯛の骨みたいになってしまっていた。
その後、今里はちゃっかりとお昼ご飯を一緒にごちそうになってから、「約束があるから」と言って、午後の早い時間に帰って行った。
玄関まで今里を見送ってから、浩貴と翔多は二階の彼の部屋に腰を落ち着けた。
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