102 / 177
第102話 ライバルの目的は?
いつものホテルのデラックス・ツインの部屋に、低い振動音が響き渡っていた。
広い部屋は薄闇に包まれ、もうすぐ夜の帳が下りようとしているのがうかがえる。
……ん……、なんだ……?
浩貴はまどろみの中からゆっくりと覚醒する。
この音……聞き覚えのある……なんだっけ……?
ぼんやりと思いながら、薄く目を開けると、サイドテーブルの上に置いてある自分のスマートホンがゆっくり振動しているのが見えた。
……ああ、スマホ、マナーモードにしてたんだっけ……。
徐々に意識が焦点を結んでくる。腕の中では、翔多が小さな頭を浩貴の胸にくっつけて眠っている。穏やかな寝息が彼のさくらんぼのような唇から零れ落ちていた。
浩貴は翔多を起こさないようにそっと上体を起こすと、スマートホンを手に取った。
「……はい、もしもし」
《浩貴?》
「……今里……」
静かな部屋に、自分の声がやけに大きく響いた気がして、浩貴は慌てて声をひそめた。
「なんだよ? こんな夜遅くに」
《……なに言ってんだ? 浩貴、まだ夕方の五時過ぎだぜ?》
「え?」
浩貴がサイドテーブルの時計を見ると、確かにPM05:03の数字が浮かび上がっている。
……ああ、そうだ。今日は土曜日で、翔多と昼ご飯を食べて、ちょっと買い物して、このいつものホテルへ来たんだっけ……?
シャワーを浴びながら翔多とじゃれ合って、二人してベッドへなだれ込んで……、それからはめくるめく愛の行為……。翔多の甘い泣き声、のけ反る体、そして浩貴をきつく締めつけてくる翔多の中……。
浩貴は今里と電話中なのも忘れて、しばし眠りにつく前の官能の世界へと意識を飛ばしていた。
浩貴の体がまた翔多を求めて熱くなってくる。
《浩貴っ? おい、聞いてんのかよっ?》
今里の大声がスマートホンから耳へ飛び込んできて、浩貴は現実世界へ戻された。
ともだちにシェアしよう!