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第108話 罠③

 ウエイターが温かそうな湯気をあげるココアとカプチーノを運んできた。  翔多はココアの上にたっぷりとのった生クリームを、スプーンで一口すくって口に運んでから、熱いココアに生クリームを溶かし込むように混ぜた。  今里はそんな翔多をカプチーノを飲みながら見つめている。 「こうしてココアと生クリームが混ざり合って渦巻きになっていくでしょ? これがオレ、好きなんだよねー」  翔多が楽しげに話すと、今里は目を細めて笑った。 「ふうん。翔多くんって、ほんとおもしろいねー」 「じゃ、いただきまーす」  翔多がココアのカップを持ち上げようとしたとき、  「あっ……、翔多くん!」  今里がいきなり声を高くした。  ビクッとして、カップをソーサーへ戻す翔多。 「な、なに? 今里くん、びっくりする――」  今里は翔多に最後まで言わせずに、真剣な声で言う。 「ちょっとじっとしてて。翔多くん」 「え……? なに? なに?」  否応なしに不安を煽られる翔多に、今里は少し表情を緩めてから、翔多の前髪を指差した。 「前髪にガラスの破片がついてるんだ。動かないで。目に入ったら大変だから」 「ガラスの破片?」  どうして、そんなものが髪に?  翔多は怪訝に思いながらも、じっと体を固くした。 「翔多くん、目を閉じて。とってあげるから」  言われる通り目を閉じる。今里が立ち上がり、テーブル越しに翔多のほうへ、身を乗り出すのを感じた。   少しの間のあと、なぜか今里の吐息が翔多の唇へふわりとした風になって届いた。

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