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第111話 大切だから
人が多い表通りを曲がり、少し歩くと、人通りのない路地に出た。
そこで浩貴はやっと翔多の手を離すと、振り向いた。そして次の瞬間、
「この馬鹿!」
ものすごい剣幕で翔多を怒鳴りつけた。
パッと見た目は少し冷たそうに見えるイケメンの浩貴だが、性格は優しく穏やかである。
勿論、今までケンカをしたこともあるけれど、こんな一方的に、それもこれほどの迫力で怒鳴られたのは初めてだった。
晴天の霹靂、まさにそんな言葉が当てはまるような浩貴の様子に、翔多はフリーズしてしまった。
しかし、固まる翔多を浩貴は尚も怒鳴りつけた。
「無防備すぎるのもいい加減にしろよ! 今里がなにを目的におまえを誘い出したのか、オレが来なきゃどうなっていたか……、ちょっとはそのバカ能天気なところどうにかしろ!」
ひどい言われようである。さすがに翔多もムッとした。
「なんだよっ、その言い方! だいたいなにがどうなって――」
そこまで言って翔多は言葉を飲み込んだ。
確かに浩貴は怒っていた。ものすごく。しかし、それ以外にも彼の表情は様々な感情をあらわにしていて……。
くやしさ、辛さ、それに……恐怖?
浩貴のその表情を見て、翔多は初めて悟った。自分がすごく危険な立場に置かれていたことを。
「……ごめん……」
小さな声で浩貴に謝った。こらえようとしても瞳に涙が滲んでくる。
浩貴は翔多の涙を見た途端、険しさを消し去り、困惑したような顔になった。
「泣くなよ、翔多……。オレ、おまえに泣かれたら、どうしたらいいか分からなくなる。……ごめんな、大きい声出して。オレはもう少しおまえに気を付けて欲しかっただけなんだ。大切なんだよ……翔多、おまえが。なによりも、大切なんだ……」
「うん……。浩貴、うん……」
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