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第113話 大切だから③
「それから大急ぎでホテルへ向かったんだけど、本当に間に合ってよかった。……あのとき、ホテルに入ったオレのところからは見えたんだよ。今里がおまえにキスしようとしながら、おまえのカップになにか……粉末の薬みたいなものを入れるのが」
「えっ……」
翔多は再び凍り付いた。
確かにあのとき、今里はガラスの破片が前髪についているからって、目を閉じるように翔多に言った。
ガラスの破片がつくなんて変だなとは思ったんだ。そのときに……?
「薬ってなんの……? 今里くんはなんでそんなことを……?」
「多分、睡眠薬か、そんなところじゃないかな。その気になれば簡単に手に入るみたいだし。それを使って、おまえを眠らせ、自分の部屋へ連れ込んで……良からぬことをしようとしたんじゃねーの?」
考えたくもない、というふうに浩貴は顔をしかめた。
「そんな……。じゃ、今夜アメリカへ戻ることになったっていうのは」
「それも嘘だろ。オレはそんなこと一言も聞いてないし」
少し苛ついた声音になった浩貴に、翔多は返す言葉もない。
今里くんがそんな悪意のあることをするなんて……。
「……ショック……」
翔多はすっかり意気消沈してしまい、しょげ返った声で呟いた。
今里の嘘の数々もショックだったが、なによりも自分の迂闊さバカさが情けない。
浩貴は落ち込む翔多の頭にポンと手を置き、
「無防備で無邪気なのは、翔多のいいところだと思う。たださ、さっきも言った通り、もう少し気を付けて欲しいんだよ」
「浩貴……」
「おまえはすごく、魅力的なんだから」
そう言うと照れくさそうにソッポを向いた。
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