114 / 177
第114話 怒りは消えなくて
浩貴は朝食を食べていなかったので、昼にはまだ少し早い時間だったが、二人は目についたファストフード店へ入った。
寸でのところで翔多を危機から救い、今里を殴りつけたことで、一連の出来事は一応の解決をみた。
だけど浩貴の心にはまだモヤモヤとしたなにかが残っていた。脳裏にはあと少しで今里にキスをされそうな翔多の姿が残り、消えてくれない。
翔多のほうも浩貴のそんな気持ちを感じ取っているのか、いつになく口数も少なく、ハンバーガーを口に運んでいる。
二人はなんとなく気まずい空気を引きずったまま、ファストフード店を出ると、どこへ行くともなしに歩きだす。
足を進めるごとに、浩貴の胸に翔多に対する激しい欲望が湧き上がってきた。
……今すぐ翔多を抱きたい。
オレの、オレだけの翔多をこの腕の中でめちゃくちゃにしてやりたい……!
浩貴はやにわに翔多の手首をつかむと、強引に彼を引っ張って歩きだした。
浩貴の突然の行動に、翔多が驚いて戸惑いの声をあげる。
「な、なに? 浩貴、ちょっと痛いよ……手……」
「…………」
それでも浩貴は無言で、翔多の手首をつかむ手を緩めることなく歩いた。
「……浩貴、いったい、どこ行くの?」
尚も浩貴が答えずにいると、翔多もあきらめ、引っ張られるままについてくる。
いつも使っているデラックス・ツインの部屋は、今日は使いたくなかった。
浩貴は翔多を引っ張ったまま大通りを横切り、奥の通りを歩いていく。
いつしか人通りはぐんと少なくなっていた。
そのあと何度か道を曲がると、キャバクラやホストクラブがひしめく通りに出た。勿論、昼間からこの手の店が開いているわけはなく、どの店もシャッターが下りている。
どことなくやさぐれた空気の漂う、本来なら高校生には似つかわしくない空間。
浩貴は翔多の手首をしっかりと握ったまま、その通りを抜けると、今度はなんとも派手な建物が並ぶ通りに出た。
ともだちにシェアしよう!