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第114話 怒りは消えなくて

 浩貴は朝食を食べていなかったので、昼にはまだ少し早い時間だったが、二人は目についたファストフード店へ入った。  寸でのところで翔多を危機から救い、今里を殴りつけたことで、一連の出来事は一応の解決をみた。  だけど浩貴の心にはまだモヤモヤとしたなにかが残っていた。脳裏にはあと少しで今里にキスをされそうな翔多の姿が残り、消えてくれない。  翔多のほうも浩貴のそんな気持ちを感じ取っているのか、いつになく口数も少なく、ハンバーガーを口に運んでいる。  二人はなんとなく気まずい空気を引きずったまま、ファストフード店を出ると、どこへ行くともなしに歩きだす。  足を進めるごとに、浩貴の胸に翔多に対する激しい欲望が湧き上がってきた。  ……今すぐ翔多を抱きたい。  オレの、オレだけの翔多をこの腕の中でめちゃくちゃにしてやりたい……!  浩貴はやにわに翔多の手首をつかむと、強引に彼を引っ張って歩きだした。  浩貴の突然の行動に、翔多が驚いて戸惑いの声をあげる。 「な、なに? 浩貴、ちょっと痛いよ……手……」 「…………」  それでも浩貴は無言で、翔多の手首をつかむ手を緩めることなく歩いた。 「……浩貴、いったい、どこ行くの?」  尚も浩貴が答えずにいると、翔多もあきらめ、引っ張られるままについてくる。  いつも使っているデラックス・ツインの部屋は、今日は使いたくなかった。  浩貴は翔多を引っ張ったまま大通りを横切り、奥の通りを歩いていく。  いつしか人通りはぐんと少なくなっていた。  そのあと何度か道を曲がると、キャバクラやホストクラブがひしめく通りに出た。勿論、昼間からこの手の店が開いているわけはなく、どの店もシャッターが下りている。  どことなくやさぐれた空気の漂う、本来なら高校生には似つかわしくない空間。  浩貴は翔多の手首をしっかりと握ったまま、その通りを抜けると、今度はなんとも派手な建物が並ぶ通りに出た。

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