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第118話 初めて
二人が翔多の下宿先へ帰ってきたとき、夜もまだ早い時間だったので、浩貴は少し彼の部屋へ寄っていくことにした。
翔多の伯母さん特製のフルーツジュースを持って二階へ上がり、彼の部屋に腰を落ち着ける。
翔多はフルーツジュースを一気に半分ほど飲み干してから、やっと一息ついたというふうに、ミニテーブルに突っ伏して、
「はーあ……」
大きく息を吐き出した。
浩貴はそんな翔多の柔らかな髪にそっと触れ、優しく撫でてやる。
翔多はしばらくされるがままにうっとりとしていたが、やがて愛くるしい瞳で浩貴を見上げて呟いた。
「オレ、ラブホテルって生まれて初めて入った」
「……そんなのオレだってそうだよ」
浩貴が同じように答えると、翔多は途端にガバッとミニテーブルから顔を上げて、
「えっ? ほんとに!?」
驚いたような声を出した。
「なにそんなに驚いてんだよ。オレだってラブホテルなんか入ったのは、今日が初めてだよ。だから出るときもあんなに慌てたんじゃないか」
浩貴は苦笑した。
「でも、浩貴、今まで何人か女の子と付き合ったことあるじゃん……」
「そんなところまで進まなかったよ、どの女の子とも。オレは翔多が初めてで、ただ一人の相手だよ、エッチしたの……」
照れくさくて、最後のほうは消え入りそうな声になってしまった。
翔多はそんな浩貴をじっと見つめていたが、次第にその愛らしい顔が微笑みでいっぱいになる。
「すごくうれしい……」
喜色満面の翔多を見て、浩貴もまた聞き返した。
「……翔多は、どうなんだ?」
同性は浩貴が初めての相手だと、はっきりと分かっているが、では女の子とはどうなんだろう?
それは浩貴がずっと知りたいと思いながら、なかなか聞けずにいたことだった。
浩貴が知っている限りでは、翔多に付き合っている女の子がいたことはないが、やはり本人の口からきちんと聞きたいのだ。
翔多は浩貴の質問に真っ赤になって答えてくれた。
「オレはなにもかも浩貴が初めてだよ。なにもかも浩貴とだけ。ファーストキスもあのとき、浩貴にされたのが初めて」
……二人が恋愛関係になったきっかけのキス……あれが翔多のファーストキス?
「翔多……」
恋人の告白に、浩貴の心はうれしさと感動で満たされた。
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