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第119話 うれしい誘い
「オレは頭の先から爪先までぜーんぶ浩貴一人のものだよ」
「翔多……」
今一度、愛しいその名前を呼んでから、柔らかな髪を撫で、そのままクチャクチャッと乱してやる。
「わっ。なにするんだよー、もうー」
髪を乱されて翔多が頬を膨らませて怒る。そんな表情もまたかわいくてたまらない。
と、不意に翔多がなにやらニンマリとした笑みを浮かべた。
「ねー、ラブホでの浩貴って、すごく強引だったよねー?」
「え? そ、そうか?」
事実その通りだったので、浩貴はなんともばつが悪い。
「アグレッシブでサディスティックな浩貴も素敵だったよ、なーんて」
翔多がそんな恥ずかしいことを口にした。
「サディスティックって……。オレ、おまえのこと叩いたりとか、酷いことはしてないだろ?」
「苦痛と快感は表裏一体。ある意味一緒ってことだからさ。哲学的でしょ?」
「なに言ってんだか」
浩貴は苦笑してしまう。
翔多が頬杖をついて、ぽつりと呟いた。
「……たまにはさ、いいよね、ああいう場所も。ちょっとスリルがあって」
「うん。そうだな」
確かにたまにいくのなら、ラブホテルも楽しいかもしれない。大人にしか入れない特別な場所へこっそり忍び込むのは、なんとなく背徳めいていて。
翔多が頬杖をついたまま言葉を紡いだ。
「いつか、また行こうね」
それは浩貴にとって、すごくうれしい誘いだった。
「ああ」
どこまでも照れくさい気持ちでうなずいた。
「またどこへ行くの?」
突然、部屋のドアが開いたかと思うと、翔多の伯母さんがヒョコッと顔を出した。
「わっ!!」
「ひゃっ!!」
不意打ちの伯母さんの登場に、二人とも度肝を抜かれてしまい、文字通り飛び上がる。
「やーね、なにそんなにびっくりしてるの? ケーキ持ってきてあげたのよ?」
見ると伯母さんが手にしているトレイの上に、美味しそうなイチゴのショートケーキと紅茶が乗っていた。
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