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第121話 恋敵からの手紙

〈浩貴へ  昨日、オレはアメリカに戻ってきたよ、今度は本当にね。日本では翔多くんとおまえに悪いことをしたと思ってる。ごめん。  オレがあんな卑怯な真似を翔多くんにしたのは、彼に少々腹を立てていたからだったんだ。  多分、翔多くんはおまえに話していないような気がするんだけど、オレ一度、翔多くんの携帯に電話をかけて、『オレとエッチしようよ』って誘ったことがあるんだ――  そこまで読んだとき、便箋を持つ浩貴の手がピクッと震えた。  ……なんだと? 確かにそんなことがあったなんて聞いていないぞ。ったく、翔多のやつ……。  ――でも翔多くんはまったくオレを相手にしないで、『今里くんは本気で誰かを好きになったことがないんじゃないかな』とか言ったんだ。  オレ、今まで口説いて落とせなかったやつはいなかったんで(勿論、みんな女性だけどね)ムカッときて、それでちょっと怖い目に遭わせてやりたくなったんだ。  今になって考えると、あのとき、おまえが来て、オレを止めてくれて良かったって思ってる。  もしあのまま計画通り翔多くんをオレの部屋に連れ込んでいたら、オレきっと翔多くんをヤッちゃってたと思うから。  翔多くんは顔が綺麗なだけじゃなくて、なにかものすごくオレを惹きつける魅力があるし。  ……本気になっちゃったかもしれないな、オレ。  なんか浩貴の怒りで引きつった顔が見えそうだけど、大丈夫。翔多くんには連絡したりしないから。  でもまた近いうちに日本には帰る予定。今度はオレ一人でね。そのときはよろしく、浩貴。  あ、翔多くんにもよろしく言っておいてくれよな。それでは。                               今里司  〉  手紙を読み終えたとき、浩貴の怒りは頂点をはるかに超え、その怒りの勢いのまま手紙を引き裂いた。  なにふざけたこと言ってやがる! 今里の野郎!! これは挑戦状じゃねーか!!   また日本に来るだと!? 来るのは勝手だけどな、二度と翔多には近づかせないからな!!  浩貴は手紙を封筒とともに小さくなるまで破いてしまうと、リビングへ向かい、客用の灰皿を出したきて、その中に入れた。  仏壇から持ってきたマッチで火をつけると、紙片になったエアメールは瞬く間に灰となった。  翔多は誰にも渡さない、絶対に……!

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