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第122話 唯一無二の存在
期末テストが終わり、翌日から試験休みに入るという日の放課後、浩貴と翔多は自転車で少し遠くの公園まで出かけた。
ベンチに並んで座り、途中のファストフード店で買ったホットドッグとハンバーガーを食べる。
「……え?」
「だから、今里が日本にいるとき、おまえ、あいつに電話で誘われたことあったんだろ?」
ハンバーガーを食べ終わったあと、浩貴が少し咎めるような口調でその話を持ち出すと、翔多はオレンジジュースのストローに口をつけたまま、ちょっと考えるような素振りをした。
「もしかして、それって、『オレとエッチしよう』とかなんとか今里くんが言ってきたそのこと?」
「そうだよ。今里からそんな電話があったこと、なんでオレに言わないんだよ?」
浩貴の不機嫌な表情と声に、翔多は困ったように眉を下げる。
「ごめん……。別に言うほどのことじゃないかなって思って。今里くんの冗談だと思ったし、確かにちょっと嫌な気持ちにはなったけど、外国に長いあいだいたら、こういう冗談も出るようになっちゃうものなのかなって。それでもやっぱり不愉快ではあったから、すぐに電話のことは忘れることにしたんだよ」
「…………」
本当に翔多は無防備って言うか、危なっかしい。
けれど、置いてきぼりにされた子猫みたいにしょんぼりしている翔多を見ていると、これ以上咎める気持ちにはなれず、浩貴は小さく溜息をついた。
すると翔多が浩貴の頬にチュッとキスをしてきた。
「これで、許して? 浩貴……」
「翔多……」
真昼間の公園。周りには犬を連れて散歩している人や、おしゃべりに興じている人たちが結構いるというのに、大胆である。
でも頬に残る翔多の柔らかな唇の感触はとても心地よく、自然と浩貴の顔はほころんでしまう。
そして浩貴もまた翔多の肩に自分の腕を回して、大胆に引き寄せた。
運命は偶然の積み重ねによる必然――。
昔なにかの本で読んだ言葉を浩貴は思い出した。
最初の運命のいたずらのようなキスがなければ、二人は自分の気持ちにずっと気づかないままだったかもしれない。
友情を超えることはなかったかもしれない関係。
でも二人は気づいてしまったから。もう戻れないし、戻りたくない。
浩貴と翔多はお互い唯一無二の恋人同士だから……。
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