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第128話 編入生②
ふと気づけば、教室中の視線が浩貴と翔多と今里に三等分されたままフリーズしていた。
「なんだ? 園田、岡利。今里と知り合いなのか?」
担任が教室の空気を再起動させるように浩貴と翔多に問いかける。
だが、担任の問いかけに答えたのは、今里だった。
「園田くんは幼い頃の幼馴染で、岡利くんは以前オレが一時帰国したときに、園田くんに紹介されて仲良くなったんです」
紹介なんかしてねーし、翔多はおまえと仲良しなんかじゃねーよっ!
浩貴は心の中で怒りの声を炸裂させた。
「そうか。おい、園田、岡利、いつまでも突っ立ってないで座れ」
担任に注意され、浩貴はおさまらない怒りを胸に抱えたまま渋々席に着いた。
翔多のほうをチラッと見ると、綺麗な眉をハの字に下げ、困惑しきった表情をして浩貴を見ている。
浩貴が目で、『心配するな』という気持ちを伝えると、翔多は少しだけ安心したような表情になり、かすかに微笑んだ。
二人がアイ・コンタクトを交わしているあいだにも、担任が今里を紹介する声は続いていた。
「――だから、一日も早くクラスに溶け込めるように、皆、仲良くしてあげてください」
決まり文句で話を終えると、珍しく生徒たちは素直に、
「はーい」
と声を揃えた。……浩貴と翔多の二人を除いて。
休み時間になると、今里の周りにはさっそく生徒たちが集まった。
「なーなー、アメリカのどこに住んでたの?」
「郊外だよ、超田舎」
「ふーん」
「やっぱり金髪の女の子は美人ばかり?」
「どうだろ。でもオレは日本の女の子のほうがかわいいと思う」
クラスメートたちの質問に、今里は淀みなく答える。
「浩貴と翔多とは知り合いなんだって?」
「うん」
「あれ? そういえば当のあいつらはどこへ行ったんだ?」
当の浩貴と翔多は、授業が終わるチャイムが鳴るやいなや、それこそ目にもとまらぬ素早さで教室から飛び出していた。
そして普段からほとんどひと気のない東校舎の裏庭へと避難した。いまだ二人は当惑と混乱の只中にいる。
翔多は迷子になった子猫のように不安そうな顔をしているし、浩貴のほうははっきりと苛立っていた。
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