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第129話 指切りと打ち明け話と

 明らかに今里は翔多を狙って帰国したのだ。  浩貴の心に不快な気持ちが込み上げてくる。 「翔多、いいか。今里がなにか、おまえに言ってきても絶対に無視するんだ! いいな!?」 「うん。分かってる」  以前、今里が一時帰国したときのように、翔多の身を危険にさらすことだけは、絶対に避けなければ……。  それにしても、オレと翔多にとって、今里はもう過去の人間だったはずなのに……忌々しい! 「絶対だぞ! 翔多」 「うん。指切りするっ」  ――今里のことは完全に無視すること――  そう言って、浩貴と翔多は指切りげんまんまでして約束した。  それなのに……。  約束は、その日の夜、翔多の携帯にかかってきた今里からの電話によって、早くも破られることになってしまうのだった。  携帯に示された見知らぬ電話番号の主が今里だと分かった瞬間、翔多はすぐに電話を切ろうとした。  が、その直前、携帯から聞こえてきた今里の言葉に、翔多の手は止まってしまった。  今里は、 《オレは浩貴が好きなんだ!!》  そんなふうに叫んできたのだ。 「えっ……?」  さすがに聞き捨てならなくて、翔多は携帯を持ち直し、今里に問うた。 「浩貴が、好き? 今里くんが……?」 《そう。オレは子供のころから浩貴が好きだったんだ。翔多くんに色々ちょっかい出したのも、実はみんな浩貴の気を引きたかったからなんだ》 「え? え? え?」  翔多の頭の中は今やパニックの極限状態だった。  しかたない。このような展開は予想だにしていなかったのだから。  ――今里がなにか、おまえに言ってきても絶対に無視するんだ! いいな!? ――  浩貴からきつく言われていた注意も、翔多の頭から完全に抜け落ちてしまっていた。  ……今里くんが、浩貴を、好き? 「うそ……」  翔多の口から無意識に間抜けな声が漏れた。

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