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第133話 恋人の思い違い②
しかし、翔多はそんなことにはまったく気づかずに、
「はい、おはよー」
と、浩貴の後頭部を押さえて、ペコリと今里へお辞儀させた。
「やめろよ!」
あまりの翔多の鈍感さに、さすがの浩貴も少しイラッとして、きつい口調で彼を怒鳴りつけてしまった。
翔多がビクッと体を震わせ、
「ごめん……」
しゅんとした声で謝ってきた。
「違っ……、翔多はなにも悪くないからっ……」
浩貴は慌てて言い繕ったが、翔多はしょんぼりと肩を落としてしまっている。
「翔多……」
浩貴がもう一度、翔多に話しかけようとしたとき、今里が割って入ってきた。
「浩貴も翔多くんも、オレのせいでそんなふうに気まずくならないでよ」
いかにもすまなそうな声と表情を作っているが、浩貴には今里の本音は見え見えで、怒りは大きくなるばかりだ。
オレたちを気まずくさせて喜んでいるやつが、どの口でそんなことを言いいやがる!
今里、おまえはオレたちを気まずくさせて、少しずつ亀裂が入っていくのを待っているつもりか? ……でもな。
「……翔多、行くぞ」
浩貴は翔多の手をつかむと強引に自分のほうへ引き寄せ、細い腰を抱くようにして今里の横を通り過ぎた。
腰をぴったりと密着させて歩く姿は、『親友同士』にしては、やらしすぎる。
「ひ、浩貴、ち、ちょっとひっつきすぎじゃない?」
翔多が少し戸惑ったような声を出したが、
「いいんだ」
浩貴はきっぱりと応えた。
「浩貴……」
さっきまでのしょんぼりとした表情はどこへやら、翔多がうっとりとした顔を見せる。頬を上気させ、瞳をキラキラさせて。
そのまま仲睦まじく歩いていく浩貴と翔多。
憎悪の視線を向けてくる今里へ、浩貴は心の中で言葉を突き付けた。
オレたちのあいだに、どんな小さな亀裂さえも入れさせはしない。
翔多に邪まな思いを持つおまえの存在は、絶対に許さない……!
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