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第139話 恋敵の鋭い視線

「今日はもう授業受けるの、無理だな……」  ようやく呼吸が落ち着いた浩貴は苦笑しながら、腕の中の恋人に話しかけた。 「うん……」  翔多は何度もイカされたせいで、ぐったりとなりながらも、微笑み返してくれる。 「制服もぐしゃぐしゃになっちゃったし。もう今日はサボっちゃおうぜ。オレ教室行って、鞄取ってくるから、翔多は先に自転車置き場で待ってて。……でも、おまえ歩けるか?」 「うん。なんとか……」  そう言って翔多は、ひよこのようなおぼつかない足取りで歩いてみせた。  二人は三時間目が終わる少し前に屋上から校内に入ると、踊り場でチャイムが鳴るのを待ち、浩貴は教室へ二人の鞄を取りに、翔多は自転車置き場へと向かった。  浩貴が教室へ戻り、自分の鞄と翔多の鞄を持ち、こっそりと出て行こうとしたとき、ものすごい憎悪の視線を感じた。  視線の主は今里である。  浩貴は恋敵の鋭い視線をものともせず受け止め、睨み返すと、教室をあとにした。  今里の嫉妬は頂点に達していた。  二時間目三時間目と、浩貴と翔多は二人揃って授業をサボり、どこかへ消えていた。  今里がイライラした気持ちでいると、ついさっき浩貴だけが教室に戻ってきて、自分と翔多の鞄を持って再び出て行ってしまった。今日はもうサボるつもりだろう。  浩貴はブレザーのボタンはきっちりととめていたが、ズボンはしわだらけだったし、髪の毛も乱れていた。  ……絶対あいつらヤッてやがったんだ……!  浩貴の野郎がどこか空き教室にでも翔多を連れ込んで、さんざんヤラシイことをしやがったのに決まってる。  ちくしょ……! 浩貴め、オレの翔多を……!  かなり自己中心的なことを考えながら今里は、浩貴と翔多が睦み合う姿を想像して、嫉妬に狂っていた。  ……もう少し時間をかけて、翔多を油断させてから近づいていくつもりだったけど、もう我慢も限界だ……! これ以上浩貴に翔多を好きにさせてたまるか!!  翔多はオレのものだ。美しい容姿も、少しとぼけた性格も、すべてオレだけのものだ。  ……

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