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第141話 恋敵の計画②

 自転車置き場で翔多が自分の自転車にもたれかかるようにして立っている。  その傍を友人たちが声をかけては通り過ぎていく。  放課後とはいえ、まだそんなに遅くはない時間なので、自転車置き場には帰宅部の生徒たちがひっきりなしにやってくる。  今里は少し離れた渡り廊下の陰からジリジリした思いで、翔多の後ろ姿を見つめていた。  ちっきしょ! 早く翔多が一人きりになってくれなきゃ、浩貴が来ちまうじゃねーかっ! 早く一人になってくれ! 翔多!!  そんな今里の願いを悪魔は聞き入れてしまったらしい。  ピンクの自転車に乗った女子生徒が帰ってしまうと、自転車置き場には翔多一人になった。  翔多は自転車にもたれたまま、ぼんやりと佇んでいる。  ……今しかない!  今里はネットで買った薬品を染み込ませたハンカチを右手に持ち、音を立てないように気を付けて、背後から翔多へ近づいていった。  そして無駄のない素早い動きで、翔多の口元をハンカチで塞いだ。 「!?」  翔多は突然の出来事に体をビクつかせたあと、反射的に自分の口元を覆う今里の手を振り払おうとしたが、すぐにその手は力を失った。  翔多の体がその場に倒れ込みそうになるのを今里が支える。  今里は翔多を腕の中に包み込むようにして抱きしめながら、彼の顔を覗き込んだ。  ネットで買った薬はよく効いたようである。  翔多は薬をかがされたことはおろか、自分になにが起こったのかも分からないまま気を失ったことだろう。  さくさんぼのような唇を少しだけ開いて、人工的に落とされた深い眠りにつく愛しい人。  今里は翔多の美しい顔を見つめながら、大きな幸福感に浸っていた。

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