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第142話 恋敵の計画③
今里はそのまま翔多を腕に抱えるようにして、自転車置き場を離れた。
クラブ活動に励む生徒たちから、なるべく見えないようにグラウンドの隅を通り、体育館へと向かう。
この日、どこのクラブも体育館を使用していなかった。いつも利用しているバスケットボール部やバレーボール部が、揃って他校へ練習試合に行っているためだ。
今里はそのことを知っていたので、翔多を体育館へ連れてきたのだ。
今里の足音と、彼に引きずられるような形になっている翔多の靴が床を擦る音だけが、響く広いホールを横切り、奥にある体育倉庫へ入りドアを閉めた。
鍵をかけることができないのが、少し不満だったので、バスケットボールが入った籠を引っ張って来て、ドアの前に置いた。
体育倉庫には小さな窓が一つだけあり、そこから夕暮れの日が差し込んでいる。今里は薄暗い部屋のマットの上に翔多を横たえた。彼が目を覚ましそうな気配はまったくない。
穏やかに眠る天使のような顔。
その寝顔は今里が想像していたよりも幼く、子供のように無垢で……。
ほんの少しだけ今里の胸が痛む。
こんな形で翔多を手に入れてしまっていいのだろうか、と。
今から自分がすることは翔多をひどく傷つけてしまうことだろう。
……しかし、そんなふうに思ったのは一瞬のことだった。
翔多を手に入れたい。この手でめちゃくちゃに犯して、自分のものにしたい。
もうこれ以上、浩貴なんかの好きにはさせない。
そう、体を繋いでしまえが、翔多の心もオレのものになるはずだ。
そんな手前勝手で狂気に近い欲望が、今里の少しばかりの良心を呑み込んでしまった。
今里は身を屈めて、翔多の頬にそっと手を伸ばした。
……うわ。やわらけー。それにすべすべ……。
翔多の肌は思っていたよりずっと柔らかく、ツルツルすべすべで、至近距離で見ても、毛穴の一つも見えないくらい、きめが細かく綺麗だった。
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