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第143話 恋人の危機

 今里はしばらく翔多の肌触りにうっとりと酔いしれてから、小さく開かれた愛らしい唇に自分の唇を重ねた。  すげ。唇もほんと柔らかくて、超気持ちイイ……。 「翔多……」  今里は深い眠りに落ちている愛しい人の名前を囁きながら、彼の唇を思いのままに味わう。  唇のあいだから舌を侵入させたが、勿論、翔多から反応が返ってくるはずもない。  そのことに今里は口惜しさを感じつつも、翔多のネクタイに手をかけて、ゆっくりと解いていった。  ネクタイを放り出し、制服のシャツのボタンを外していくと、そこにはいくつものキスの跡があった。  浩貴の野郎がつけたんだ……!  愛しい翔多が浩貴に抱かれているのだという現実を突き付けられ、今里は嫉妬の炎に油を注がれた。  絶対、許さねー……! 翔多はオレのものだ……!!  その頃、浩貴は担任との話を終え、自転車置き場へ来ていた。  だが、そこで待っているはずの翔多がいない。  ……トイレにでも行ったのかな?   そんなふうに考えながらも、嫌な胸騒ぎが這い上がってくる。  まさか……まだ時間も早いし、校舎内にも生徒は残っている。グラウンドでは運動部が元気よく声を出している。  いくら今里でも、翔多に悪さをすることなどできるはずがない。  浩貴は自分にそう言い聞かせるが、胸を騒がす嫌な感覚は消えない。  翔多の携帯に電話をかけてみても、呼び出し音が鳴るばかりで出ない。浩貴は不安でいても立ってもいられなくなり、とにかく翔多を探そうと思った。  ……でもどこを探せばいい?  浩貴が焦る頭で考えを巡らせていると、陸上部のクラスメートが通りかかった。 「浩貴、どうしたんだ? 顔色悪いぞ、大丈夫か?」 「小川、翔多を見なかったか?」 「翔多? そういえばさっき今里と一緒にいたけど……」  浩貴の視界がグラリと揺れる。 「いつ!? どこへ行った!?」  クラスメートは浩貴の剣幕に、気圧されたように一歩下がってから答えた。 「ついさっきだよ。五十メートルのタイム計ってるときだったから、どこへ行ったかははっきり見てないんだけど、確か体育館のほうへ――」  浩貴はクラスメートが言い終わる前に、走り出していた。  翔多……!!  恋人の名前を心の中で叫びながら、体育館へ向かって疾走した。

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