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第144話 恋人の危機②

 今里が翔多の肌に唇を這わせても、彼は依然目を覚ます気配はなかった。  そのことに安堵するような気持ちが半分、残念なような気持ちが半分……なんとも複雑な思いの今里だった。  意識が戻れば、当然翔多は激しく抵抗するだろうし、大きな声で浩貴に助けを求めるだろう。  だが、そんな翔多を力ずくで犯して自分のものにしてしまいたい……そんな残虐な思いが今里の中にあるのも事実だった。  泣き叫ぶ翔多を押さえつけて、自分の欲望を彼の中に挿入し、めちゃくちゃに突き上げて……。そしたらそのうちに翔多はオレのテクニックに溺れて、嫌がりながらも受け入れてくれるようになり、やがては浩貴なんかよりオレに惹かれてくれるんじゃないか……そんなふうにも思えてくるのだ。  冷静に考えてみれば、そんなことはあり得ないのだが、このときの今里は冷静さとは程遠かった。 「翔多……好きだよ……。浩貴なんかより、オレのほうがずっとおまえを大切にするからな……」  そう囁き、もう一度翔多の唇にキスをしてから、今里は彼のズボンのベルトに手をかけた。  そのとき。 「翔多!! 大丈夫かっ!? 翔多! 翔多っ!!」  声帯を痛めそうなほどの怒鳴り声とともに、体育倉庫のドアがガタガタと激しく揺らされた。  ドアの前にはバスケットボールが入った籠が一応のつっかえとして置いてあったのだが、次の瞬間には、その籠ごとドアが蹴り倒された。  そして、そこに姿を現したのは、言うまでもない浩貴だ。  今里は大きく舌打ちをした。  なんでこいつは、いつもここぞってところで、オレと翔多の邪魔をしやがるんだ!?  まるでドラマか小説の中のヒーローのようなタイミングで現れる浩貴に、今里はいい加減うんざりした。  翔多を手に入れるためなら手段を選ばないと開き直っていた今里は、これからというところで邪魔をした浩貴を憎悪の籠った目で睨みつけた。

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