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第145話 救出

 体育倉庫のドアを蹴り開けた浩貴は、怒りのあまり視界がぐにゃりと歪むのを感じた。  翔多は意識を失い、マットに横たわっていた。シャツは脱がされ、上半身が露わにされている。  今里の右手は翔多のベルトにかけられ、あと少し自分が来るのが遅かったら、下半身までむき出しにされていたことだろう。  今里が翔多になにをしようとしていたのか、考えるのも厭だった。 「今里! てめぇ……!!」  激しい怒りのため、声さえうまく出せない。  浩貴は掠れた声で言葉を吐きだすと、今里に飛びかかり、翔多の体から引きはがした。  そして思いきり今里を殴った。  浩貴の拳はまともに今里の顔面を直撃し、彼はそのまま剣道の道具やら雑多なものが積み上げられてあるところまで、吹っ飛んで行った。  けたたましい音が夕暮れの体育倉庫に響き渡る。  浩貴は急いで翔多のほうへ駆け寄ると、そっと彼の体を抱き起こした。 「翔多! 翔多? 大丈夫か!? 翔多……翔多っ……」  何度呼びかけても意識を取り戻す気配はなかった。  薬かなにかで眠らされたのかもしれない。浩貴は自分の迂闊さを後悔した。  今里の狡猾さはよく知っていたはずなのに、翔多を一人にしてしまった自分を激しく責めた。  浩貴は翔多の小さな頭を抱きしめて、唇をきつく噛みしめる。  背後で今里がノロノロと起きだした。 「……ってーな! 浩貴、おまえなんなんだよっ!? いっつもいいところで邪魔しやがって!! もう少しで翔多を手に入れることができたのに!」  浩貴に殴られたせいで、鼻血を出しながらも、ふてくされたようにそんな暴言を吐き、開き直る今里。 「うるせぇ!! こんな卑怯な真似ばっかりしやがって。これ以上翔多に近づいたら、マジでおまえ殺すからな……! 今里」  本当は今里を半殺しの目に遭わせてやりたかったが、翔多のことが心配だった。  浩貴は翔多を抱き上げると、もう今里のほうは見ないようにして、体育倉庫を出て行った。

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