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第155話 衝撃③
「浩貴、遅かったねー」
浩貴が谷川との最悪の話を終え、茫然自失状態で自転車置き場まで来ると、そこには先に帰ったとばかり思っていた翔多が待っていた。
最初はいつもの能天気な声で話しかけてきた翔多だったが、浩貴のただならぬ様子に気づいたのか、一転心配そうな声になった。
「浩貴っ!? どうしたの? 谷川となにかあったっ?」
「翔多……!」
浩貴は恋人の華奢な体を思い切り抱きしめた。
「浩貴? なに? 苦しいよ……。本当にいったいどうしたの?」
翔多が戸惑いの声をあげる。
「翔多……」
浩貴は抱きしめる腕の力を少し緩めると、彼の顔を見つめた。
「先に帰ってろって言っただろ?」
「うん。でもなんか気になって……」
「なにもなかったか? オレがここへ来るまでに谷川とは会わなかっただろうな!?」
「……? 谷川と会ってたのは浩貴だろ? それよりなにがあったの? 谷川の話ってなんだったの?」
翔多の大きな瞳が心配そうに揺れている。
「ああ……なんでもない。今度のテストのヤマ教えろとか、なんとか、オレにもよく分かんなかったよ」
自分でも、ものすごい下手な言い訳だと思ったが、浩貴の頭は今、恐慌状態で冷静にものを考えらえない。
案の定、翔多は疑ってかかってきた。
「うそだろ、浩貴。本当は谷川のやつ、きっととんでもない因縁つけてきたんだろ? 二人で対策考えようよ」
「ほんとになんでもない。大丈夫。少なくとも翔多には関係ないことだから」
翔多に本当のことなど言えるはずがない。
だが、翔多は浩貴のこの言葉に傷ついたようだった。
「関係ないって……浩貴、ひどいよ。オレたちは辛いときは二人で支え合っていく仲だろ……?」
「……そうだな。ごめん、翔多。オレの言い方が悪かったよ。でもさ、本当におまえが心配することはなにもなかったんだよ?」
そう言って、浩貴は笑ってみせた。笑顔を作るのはとてもしんどかったが、翔多にこれ以上心配をかけたくない。
それに翔多と話しているうちに、浩貴の恐慌状態が少しずつ落ち着いてきた。
そう、パニックになんかなってる場合じゃない。
目の前の誰よりも大切な恋人を絶対に傷つけさせはしない……!
「でも、浩貴……」
それでもまだ不安げな翔多の頬へ、浩貴は素早くキスをすると、
「ほら、翔多、早く帰ろうぜ。暗くなっちまう。約束通りケーキ買ってあげるから」
彼を促した。
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