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第157話 張り込み

 健気な決意を胸に、翔多は日曜日の朝六時から浩貴の家を見張っていた。  出入り口がよく見える、曲がり角の街灯の陰に隠れて、刑事のように張り込みをしているのだ。  翔多が腕時計に視線を落とすと、九時十五分だった。  三時間以上も張り込んでいることになる。  今のところ、浩貴が出てくる様子はないなーと、翔多があくびを噛み殺したとき、園田家の玄関の扉が開き、彼が出てきた。  浩貴は表情をこわばらせ、翔多が張り込んでいる場所とは逆方向へ歩いていく。  浩貴は一人で、あとから彼の家族が出てくる気配はない。  やはり家族で出かけるというのは嘘だったようだ。  ……もうちょっと距離を置いてから、浩貴を尾行しよう。  翔多がそう思ったとき、急に辺りが暗くなった。  え? と思った次の瞬間には、グローブのような分厚い手で口を塞がれた。 (? う? ん~~! ???)  翔多は一瞬、なにが起きたのか分からなかった。  が、次第に状況が分かってくる。  どうやら背後から現れた人物に、抱きすくめられるようにして体の自由を奪われ、口を塞がれているみたいである。  背後の人物はどうやら男のようだ。それもかなりの大男みたいだった。翔多が抵抗して体を動かそうとしてもビクともしない。  そのうえ、男は翔多が声を出せないように口を手で塞いでいるつもりなのだろうが、なんせグローブのような分厚く大きな手だ。  小顔の翔多は口元どころが、顔全体を塞がれるような形になってしまっている。  ……い、息が、で、できない……!  必死になって逃れようとしても敵わず、翔多が呼吸困難で本当に命の危険を感じたとき、太い指のあいだに少しだけ隙間ができた。  翔多はそこから、どうにかこうにか、か細い呼吸を繰り返す。  まだ息苦しくはあるが、とりあえず窒息死の危機は去ったようである。

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