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第159話 戦い

 風に乗って浩貴と谷川が言い争う声が翔多へ届く。 「……翔多はどうした? 園田」 「ふざけんな!! 連れてくるわけないだろっ!」  ……は? なんかオレの名前が出てるけど……、なんで???  二人の会話を聞いて翔多は戸惑う。よもや自分こそが谷川の目当てだとは夢にも思っていなかった。  翔多の困惑を余所に、浩貴と谷川のあいだには一触即発のピリピリした空気が漂っている。 「ふーん。浩貴クンは動画を拡散されてもいいわけ?」  谷川が自分のスマートホンを浩貴のほうへかざして言う。 「……おまえを倒して、スマホをぶっ壊す!!」  強く言い返す浩貴。  どうやら諸悪の根源は谷川のスマートホンにあるらしいことに翔多は気づいた。  谷川はスマートホンを上着のポケットにしまうと、せせら笑った。 「は? 園田、おまえオレとタイマンはろうっての? いい度胸してるな」 「絶対おまえを倒す!」  そう言葉を突き付けると、浩貴は谷川に殴りかかった。  少し離れたところで始まった浩貴と谷川の殴り合いに、翔多は狼狽えながらも必死に恋人を助ける方法を考えていた。  浩貴はスポーツ万能で、スリムな見かけの割に力もあるけど、今回は相手が悪すぎる。谷川は札付きのワルでケンカ慣れしているからだ。  それでも浩貴は決死の形相で戦っていた。  詳しいことは分からないけれど、おそらくオレのために……!  なんとかこの大男から逃れて浩貴を助けなきゃ。  翔多はそう思うが、抱きすくめられた体はビクとも動かない。  少しでも大男の力が緩んで、隙ができたら、なんとかなるのに……!

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