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第162話 戦い④
浩貴が狂ったように翔多の名前を呼び続けているとき、谷川は自分のスマートホンが放り投げられた人なし沼を茫然と見ていた。
スマートホンの回収が不可能だと思い知ると、谷川は憤怒の表情で浩貴たちのほうを振り返った。
「こいつ! どうしてくれるんだ!! オレのスマホ……!」
そして、浩貴の腕の中の翔多につかみかかろうとした。
「翔多に触るんじゃねえ!!」
浩貴は翔多を自分の胸に守るようにして叫んだ。
その声と鋭い瞳の迫力に、さすがの谷川も怯んだように後ずさる。
「……谷川さーん」
そのとき少し離れたところから声がして、見知らぬ大男が浩貴たちのほうへヨロヨロと走ってきた。
谷川はその大男に罵声を浴びせた。
「キタジッ!! おまえ、なにやってんだよっ! この役立たずっ」
「だって谷川さん、そいつ、オレの股間を思いきり蹴りやがって……」
キタジと呼ばれた大男は、ガタイに似あわない情けない声で訴える。
谷川はチッと舌打ちをすると、キタジに命令した。
「もういい。早く園田のやつを押さえつけろっ!!」
「は、はいっ……」
そして、救急車を呼ぼうとしている浩貴をはがいじめにすると、翔多から引きはがす。
「なんだよっ!? おまえっ? 離せっ!!」
浩貴はめちゃくちゃに暴れてキタジを振り払おうとしたが、この大男、信じられないほど力が強い。
「谷川っ、卑怯だぞっ!!」
浩貴がにらみつけると、
「ケンカに卑怯もクソもあるかよ。大体、てめえだって翔多を連れて来なかったじゃねーか」
谷川は憎々しい笑みを浮かべながら言った。
「ま、多分そうなると思って、キタジに翔多を拉致させたんだけどな」
続けて言うと、谷川は、荒れ果てた地面に力なく横たわる翔多のほうへ近づいた。
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