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第164話 絶望的状況で

「やめろーっ!!」  浩貴の目の前で、翔多が、誰よりも大切な恋人が、自分以外の男に体を撫でまわされ、肌に唇を這わされている。  谷川の手が翔多のズボンのベルトにかかる。  カチャカチャとそれを外していく音がやけに大きく耳に届いてくる。 「やめろっ……! やめてくれっ……!!」  浩貴は泣いていた。  翔多が、オレの翔多が……。  暴れているうちに口の中を切ったらしく、浩貴の唇の端から血が滴った。それでも構わずめちゃくちゃに暴れ続けるが、キタジの馬鹿力は揺るがない。  谷川の指が翔多のジッパーを降ろす。絶望的な状況だった。  そのとき。 「なにをしている!?」  突然、よく通る大きな声が聞こえたかと思うと、自転車に乗った警官が道の向こうからやってきた。  警官は四人の姿を見て一瞬で状況が分かったようだ。  放り投げるようにして自転車を降りると、谷川を翔多から引き離し、押さえつけた。  それからキタジのほうへも視線を向け、叫ぶ。 「おまえもその子を離して、大人しくしてろよ。逃げようとしても無駄だからな。もうすぐ応援が来るから!」  警官のその言葉通り、かすかにパトカーと救急車のサイレンが聞こえてきた。  キタジから解放された浩貴は、すぐに翔多の元へ駆け寄った。谷川に露わにされた胸元をそっと戻してやる。

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