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第165話 救い

「なんで警官が来るんだよっ!!」  谷川が忌々しげに吐き捨てている。  浩貴はいまだ意識が戻らない翔多をそっと抱き起こそうとしたが、それを警官がとめる。 「あ、その子、頭を殴打されたって目撃者が言ってたけど、それなら救急隊員が来るまで動かさないほうがいいよ」 「え……? 目撃者って……?」  そういえば、どうしてここに警官が来たのだろう? 「ああ、実はね――」  浩貴の質問に警官が説明を始めようとしたとき、道を走ってやって来る数人の男性の声が聞こえた。  程なく、担架を持った救急隊員が三人、警官が二人、現れた。  人なし沼があるこの広場へ来るまでの道は狭く、救急車もパトカーも通れないので走って来てくれたのだろう。  救急隊員は浩貴に、翔多が殴られたときの状況を質問してから、彼の頭を動かないように注意しながら担架に乗せた。  警官たちは谷川とキタジになにやら厳しい顔で詰問している。 「君はこの子の友だちだね? 救急車で病院に搬送するから一緒に来てくれるかな?」  浩貴は救急隊員の言葉に従い、もう谷川たちのほうは見ないで、担架に乗せられた翔多とともに人なし沼をあとにした。  救急車に揺られながら、浩貴は翔多の手を強く握っていた。  不安で胸が引き裂かれそうだった。  意識のない翔多。それを見守る自分。……その構図は以前の翔多の交通事故のときを思い出させた。  またあんなふうに長いあいだ、目を覚ましてくれなかったらどうしよう?  

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