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第166話 不安、そして安堵
浩貴の心は、谷川に動画を見せられたときから、いっときも休まることがなく不安にさらされ続け、今日のことでその不安はピークに達していた。
押さえようとしても体がガタガタと震えてとまらない。
そんな浩貴の様子を見て、救急隊員はひどく心配してくれた。
「君、大丈夫かい? 真っ青だし、あちこち怪我しているし、君も倒れてしまいそうだけど……」
「大丈夫です……。すいません」
浩貴はどうしても震えてしまう声で答えた。
「もうすぐ病院へ着くからね。日曜日だから少し遠くの病院になってしまったけど、ちゃんと治療の準備をして待っていてくれているから」
「はい……ありがとうございます」
救急隊員の優しさに触れて、浩貴の気持ちは少し癒された。
幸いにも翔多は搬送された病院で意識を取り戻した。
自分が谷川に殴られて気絶したこともちゃんと認識している。
すぐにCTと脳波の検査を受けたが、異常はなく、浩貴は安堵し、張りつめていた気が緩んで思わずその場に座り込んでしまったほどだ。
その後、翔多が医師に問診を受けているとき、すぐ傍で浩貴もケンカの際に負った傷の手当てを受けた。
大男のキタジに押さえつけられ暴れたときに、口の中を切った傷がけっこう深くて、当分は食事や歯磨きの度に苦しめられそうである。
顔をしかめて薬がしみるのに耐えていると、翔多が医師に真剣に話している声が聞こえてきた。
「それでさ、先生。よくアニメとか漫画で頭に衝撃を受けたら、星とヒヨコがチカチカピヨピヨ回る場面があるでしょ? あれほんとだね。オレ、谷川にゴンッって殴られたとき、星とヒヨコ、見えたもん」
「そう……」
四十代半ばに見える男性医師は、目の前の可憐な美少年の患者の言うことを、どこまでカルテに記すべきか悩んでいるようだ。
その様子を見て浩貴の口元に、ようやく笑みが戻ってきた。
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