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第2話

「え、えぇえええ!?誰ですかアナタ!?」  俺が慌てながら叫ぶと、男は口元に人差し指を添えて、静かにシーと言った。俺は慌てて声のボリュームを落とす。そうだ、今は10時だ。 「えぇっと、どちら様?」  男はとろとろした瞳で俺を見つめる。その雰囲気に何か気まずくなる。 「あのー、俺が何かしましたか?…」 「ね、君さぁ。」  男が口を開く。俺は何故か硬直してしまった。 「は、はい。」  俺が強ばっていると、男は健気に笑い飛ばしながら話しかける。うわ、イケメンってこういうところなんだよな…。 「ちょー可愛い♡」 「は?」  思わず間抜けな声が出た。 「お前、何言ってるんだ?」  男は目をしょぼしょぼさせながら、堪えずに言う。 「好き。愛してる。」  この男がたとえイケメンだといえども、悪寒が走った。コイツ、何を言ってるんだ!?不法侵入で通報しても良いよな!? 「ええっと…はは、帰ってくれません?」  男はむっとする。 「本気?僕に抱かれたいんじゃなかった?」 「は?」  ますます、コイツが馬鹿げた野郎だと直感する。あぁ、酔っ払いか。んじゃ、適当に帰るように誘導して――――。 「ねぇ、僕が抱いてあげる。」  寒気が走った。コイツ、気持ち悪ぃな!第一、俺が美女ならまだしも、こんな髭の生えた疲れ顔のブサメンアラサーだぞ!?コイツ、何を考えてやがるんだよ!?  そう考えを巡らせていると、男は驚きの言葉を発した。 「…3日間彼氏。昨日、約束したじゃん。」 「は?人違いじゃないのか?どこで?何のために?」 「会社の上司に振られた30才、川上悠太郎さんと、バーで話してたじゃん。」 「…!!」  その時、思わずぎょっとした。そういえば昨日、あまりもの悲しみにバーに行ったのだ。  そこでマスターに悲しみを打ち明けていた時、マスターが「僕が恋人になってあげましょうか?」とか言ってきたんだっけ。  それで俺が「まぁ、恋人になるなら越したことはねぇな。マスター、料理上手だし。」とか言ったんだっけ。  …待て。嫌な予感がする。そういえば俺は、昨日、どうやって家に帰ったんだ? 「…。」  バーで飲みつぶれた後の記憶が、ない。もしかしたら俺は、金を払い忘れたのかもしれない。だからコイツが取り立てに来ていると。…あり得る。  俺は財布から1万円札を取り出し、男に突き出した。 「マスター、これで足りるか?悪ぃ、昨日は自力で帰ったのだとばかり思いこんでた。金を払いそびれて、悪かった。」 「君はお金も払ったし、自力で帰ったよ?」  …は? 「え、昨日言ったの、覚えてない?『3日間だけでも彼氏になってあげようか?』って僕が言ったら、君、言ったじゃん。『よろしく。』、って。」  その時、思い出した。コイツととんでもないことを約束をしたことを。…待て、でも待て。まだ、バーから出た記憶がない。 「…その後、俺は何をした?」 「え?その後?その後、僕達は君のベッドの上で――――。」  悪寒が走る。 「――――したよ。最高のセックスをね。」  男の口角が嫌ほど曲がり、真っ白の整った歯がこちらを見て笑った。

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